第4話

 俺もしばらくした後、闘技場の観客席へ向かった。ギルドメンバーがいるのはBブロックの中段と言っていた。

 「あ、来た来た!」

 観客の中、高い女子力を感じさせる声が聞こえると、そこには金髪で狐の耳が着いた女の子がこっちに手を振っていた。そのフラットボディを目印に俺はそこへ向かう。

 「ごめんごめん、負けちゃってゴーグル外したら、ちょうどご飯呼ばれちゃってさ」

 「あー、カケルのとこ日曜はご飯早いもんね。でもまたインして少し時間あったけど何かあったと?」

 この博多弁が若干入っているあざとい女子はカレン。学校の友人で俺をインフィニティに誘った。ちなみに対人戦などしたことない俺に今回青王杯に出るようけしかけたのもこいつ。

 「あー、なんか絡まれてね……」

 「え、誰に」

 「ヤマト」

 「は!?マジ!?なんで!?」

 俺はさっきあったことを簡単に話した。もちろんパンツを見せたのは省いて。

 「何それ!?失礼じゃない!?フレンドとか切っちゃえば!?」

 カレンは耳を鬼の角のように立てて怒っていた。耳そんな風に動くん?可愛いなそれ。

 「だろ?でもすごい気迫でさ……、フレンド切ったら切ったでなんか後が怖い……」

 「まぁ無限王だしね……下手なことしたら運営に消されそう」

 「いやそれはないと思うけど」

 「いやあるよ!あいつのユニ武装、頭おかしいやん!絶対運営に贔屓されとーけんね!!」

 カレンは耳をヒクヒクさせながら言った。たしかに、ヤマトのユニーク武装は異常なのだ。普通は火力の代わりに機動性や連射性が落ちる。なのにだ。

 すると、カレンの隣に座っていた色黒で細身の男がこちらを見ているのがわかった。この人もギルドメンバーだ。

 「あ、小麦粉さんお疲れ様です」

 俺が声をかけるとニコリと笑って話し始める。

 「カケルさんお疲れ様っす。今日の試合惜しかったねぇ~。いやー足に当たった時はそのまま得意のヘッドショット連発で倒すかと思ったけど」

 やはり足に当たっていたのか、こうなると俺の方が間違っているという事か。

 「いや、俺、足に当たったのわからなかったんですよ。気が付いたら後ろにいて……ユニークスキルとかそういうスキルでもあるんですかね」

 それを言うとカレンも小麦粉さんも首を捻って困り顔をしてる。やっぱそういうのはないのか。

 「当たった後ライジングを使って一気に距離詰めてたけど……どっちかというとカケルさんが動き止まってた気がしますよ?」

 小麦粉さんがそう言うとカレンもぶんぶん頷いた。

 え~。そうなの?まぁさっき映像見た時も俺が止まってる感じはしたけどさ……。すこし黙っていると小麦粉さんが続けた。

 「ところで敗者復活はエントリーしたの?あれ自動エントリーじゃないからちゃんと手続きしないと弾かれるよ?」

 「えっ!?敗者復活あるんですか?」

 「ありますよあります。明後日かな?本選の最初の組み合わせが全部終わってから。あれもトーナメント式で、勝ち残ったら本選二回戦に復活できますよ」

 「マジですか、知らなかった」

 「まぁカケルはこういう青王杯とか今まで興味なかったもんね」

 カレンはミコッと……じゃなくてニコッと笑って言ってくれる。そう、実際こういう大会には興味がなかった。たしかに、青王杯の優勝賞金は三千万円、無限王杯にもなると億を超える。だが、自分の実力では敵わないとわかっていたし、ユニーク武装も全く使い物にならない。だから夢見るのも嫌でそういう大会なんかの情報はできるだけカットしていた。それにインフィニティは対人戦だけじゃなくモンスターが支配する無限界に冒険に出かけて討伐クエストをこなしたり、高レアな武器を手に入れたりできる。どちらかというとそっちがメインだ。俺はそれが楽しかったからこのゲームをしているのだ。

 「だいたい、『青王杯に出てみなよ!』って言ったのカレンだからなぁ」

 「何?あたしが悪いの!?」

 「いや、負けた俺が悪いです……」

 「ならよし。さっさとエントリーしてきなよ!まだワンチャンあるって!最初にヤマトに当たったのが悪かっただけなんだし!」

 「はぁ……わかった」

 そう言って俺は立ち上がる。それもそうだ。次、仮に当たるとしたら決勝……そこまで行けないにしても何日もあるから対策も取れる。

 「じゃ、俺行くよ」

 「いってら~。この後どうする?クエでも行く?」

 「いや、今日は疲れたし、エントリーしたら寝るわ」

 「ん。わかった!じゃあまた明日学校で!」

 カレンは耳と一緒に手をフリフリと振る。小麦粉さんも小さく手を上げていた。

 そのあと、ロビーの受付で敗者復活戦のエントリーをしてログアウトした。

 

 

 

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