第3話

 ヤマトは冷たい視線で俺を睨んでいた。

 なんで!?ていうか俺が睨みたいんですけど!怖い!すごく怖い。

 ヤマトはつかつかとこちらに向かって歩いてくる。確実に俺を見ているせいで身動きが取れなかった。近付いてくると俺のアバターよりも小さいことがわかった。あの武器と気迫のせいで大きく見えていたのかもしれない。

 するとヤマトは口を開いた。少し艶やかな唇に目を持っていかれたがその上の眼は鬼そのものだった。

 「さっきはどうも」

 俺は少し首を前に出しただけの会釈で応える。

 「あんた、なんなの?」

 「はい?」

 そういえばさっきやられる時も似たようなことを言っていた気がする。ていうかそれ俺が聞きたい!

 「強いかと思ったら、急に動き止めて!私を舐めてるの!?足に当てたから倒せたと思ったの!?それとも初撃で決められなかったから諦めたの!?どっちにしろ舐めてんじゃないわよ!」

 「は?」

 いやマジで、は?なんだコイツいきなりボロクソ言いやがる。強くてアバター可愛いからって調子乗ってんじゃないのか!?どうせリアルはブスなんだろブス!!!という汚い言葉は飲み込んで……。

 「何のことですか?俺は諦めてもいなければ舐めてもないし、だいたい、さっきの試合はあんたの圧勝だったでしょ!ジャンプして気が付いたら後ろにいたんだし、

足にも当てた記憶がない。何のスキル使ったか聞こうと思ったっちゃけど、あんためっちゃ失礼やん!」

 あ、興奮しちゃって少し方言出た。

 「は?記憶がない!?」

 ヤマトは顔をグイと近づけて聞き直す。近い近い近い!アバターでも恥ずかしい!

 「き、記憶ないよ……」

 ヤマトは俺をじっと見つめる。え、何?戦いから生まれる恋?ワンチャン?実はリアルでアイドルしてますとか??割と声可愛いし……。

 「ていうか、あんた、人の目見て喋れないの?」

 「え?み、見てますけど」

 社会人としての心得みたいなもんを俺に押し付ける気か?俺はまだ17だし自由にさせて!

 「……」

 ヤマトは俺から少し離れると睨みつけながら周りをグルグル回り始めた。

 「何やってるんですか……?」

 「あんた、今どこみてんの」

 「どこって……どこも?」

 質問の意味が分からないし、ここで「あなたを」とか言うとキモいから答えなかった。しかし。

 「ほれ」

 ヤマトはスカートを一瞬たくし上げた。周りの男性が小さく限界まで押し殺した歓声を上げる。俺の視線の先にはパンツが!黒い紐パン的な!小さく赤いリボンがあしらわれていた。しかし、それよりも目が行ったのが健康的な生足だ。そりゃゲームの中といえども高い再現度を誇るインフィニティだと脳内ハードディスクに保管ものだわ。

 「見た?」

 「えっ!?」

 「見たかって聞いてんの」

 自分で見せたくせに不機嫌そうに聞く。

 「見た」

 「見たの!?」

 「見たよ!何で驚くんだよ!」

 なんだコイツ、頭おかしいんじゃないの?

 「色は」

 「え……」

 「色は!」

 「黒!」

 そう言うとヤマトは小さく「ほむ」と考え事を始める。黙っていれば普通に可愛いアバターだ、中の人は知らんけども。

 「最後に聞くけど」

 おうおう、勝手に始めて勝手に終わるんか、まぁこっちもさっさとこの場を去りたいからいいけど。

 「あんたの武器ってテンペストイーグルよね?ユニーク武装は?」

 ユニーク武装とはこのゲームの特徴の一つだ。プレイヤーのSNSの投稿内容、連携された通販での購入履歴などを様々なデータを使って、プレイヤーの唯一無二の武器や防具を生み出すことが出来るのだ。その性能は千差万別、今のところ同じ物は存在しないといわれている。そして、このヤマトのユニーク武装はあの巨大な鉄棍棒クニツクリ……。一体どんな投稿したらこんなヤバい武器手に入るのか……。

 「一応あるけど使い物にならなくて使ってない」

 「んなっ……やっぱり私を舐めてるの!?」

 「舐めてない!……。本当に使い物にならないんだ、重くて、取り出すと動けなくなる」

 これは本当だ。取り出すと俺が動けなくなる。何でかはわからないけど。

 「フレンド」

 ヤマトはぼそりと言う。

 「は?」

 「フレンド申請送ったから、承認して」

 「わ、わかった、あとで」

 「今!今に決まっとるやろ!」

 ちっ!承認するフリして無視する作戦が!!ただずっと睨まれているのもあれなので、諦めて承認ボタンを押した。

 「フレンド解除したりブロックしたら許さないから」

 ちなみにブロックすると今すぐヤマトが見えなくなる。まぁさすがにそこまではしない……。

 「わかったよ……んじゃ、また何か機会があったらよろしく……」

 「じゃあ、また」

 ヤマトはそっけなくそう言うと手を軽くフリフリ振って控室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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