第2話

 「かー!だめだったかー!やっぱ強い!!!」

 ゲームをログアウトすると重っ苦しいVRゴーグルを外し、言った。

 「しょうちゃん?ゲーム終わった?」

 部屋の向こうからは母の声が聞こえた。

 「あ、うん終わった。何?」

 「ご飯できたけん降りてきなさい」

 もう夕飯の時間か。

 VRとヘッドホンをPCデスクに置くと俺は階段を降りた、今日は皮肉にもカツカレーのようだ。揚げたカツの香ばしい匂いとカレーの食欲を刺激する美味そうな匂いが俺に負けたことを少しでも忘れさせようとしてくれた。

 が、点いたままのテレビを見るとそこにはインフィニティの青王杯の模様がスポーツニュースで流されていた。東京オリンピックの種目とはならなかったがその前くらいから完全にスポーツとして認められはじめ、今やゲームに興味がない母も有名なイケメン選手なら名前を言えるほどだ。

 「お母さんさっき観てたのよこれ」

 え、マジか。

 「へー」

 平静を装い返事をする。別に身バレしても不味いことはないが、それなりに心の準備というものがある。アカウントから辿られてSNSの呟きなど見られたらたまったものではない。「ちっぱい最高」とかはあとで消しておこう。

 「どうだった?」

 「やっぱりヤマトちゃん可愛いしかっこいいわよねぇ、私がもうちょっとゲームとか遊べたらあんな風な格好して武器ぶんぶん振っちゃうんだけど!」

 どうやら俺のファンではないらしいのでよかった。

 母の感想を軽く聞き流しつつテーブルに着き、カレーももしゃもしゃと食べ始め、テレビを見やる。eスポーツ解説者がテンション高めに第一試合を解説し始めていた。お、なんやなんや?聞いたろ。

 「今回注目されていたカケルはやはり絶対王者のヤマトには敵いませんでしたねぇ、カケルの毎回のパターンを読んでの回避と盾によるガード、どれも落ち着いていて風格を感じさせます」

 するとメインキャスターの男が口を挟んだ。

 「カケルは毎回一歩も動かずに敵を倒していましたからねぇ、動揺しちゃいましたよね」

 なんやこいつお前このゲームしたことあるんか!名前覚えとくからな!

 すると解説者が話を戻す。

 「そうなんですがあの後のバックステップに使ったブーストジャンプ、あの距離はかなりやり込んでスキルレベルを上げていないと出せないんですよ。しかもその間にリロードしていますし」

 よく観てんじゃん。そうなんだよ、あのスキル上げるためにどんだけ頑張ったか!!

 「そしてここ!」

 解説者がそう言うと、バックステップした後の様子が映される。

 カケルがバックステップするとすぐさま左前に発砲した。

 そうそう、でも俺がミスって右後ろに……。

 そう思っていると、映像ではヤマトは左前にいて、弾丸が足に命中していた。

 「ここで当たったんですよ!でも惜しい!足に命中するだけでヘッドショットにはならなかった!すぐさまヤマトはライジングスキルを使って加速!そのまま自身のユニーク武装【クニツクリ】で背後をとってカケルを叩き潰しました!!」

 テレビにその場面が流れる。たしかに解説者の言う通りだった。一度弾丸が足に命中している

 「えぇ~」

 そう言うしかなかった。

 あまりの事にカレーの味がわからない。美味しいけど。

 確かに俺は左前を撃ったけどその時にはもう後ろにいた。俺だけ体感時間が遅くなるようなスキルでも使われたのか?そんなスキルあったっけ……ユニーク武装ならぬユニークスキル??

 一人でごちゃごちゃ考えているともうカレーは皿から消えていた。

 「おかわりは?」

 母がやさしく聞いてくるがそれどころではなかった。

 「美味しかった、もういいよ。ご馳走様」

 「そう……」

 食べた食器を流しに置くと自室へと向かった。

 部屋に入るなりカレー臭い口にコーヒーを流し込んで、VRゴーグルとヘッドホンを装着する。さっき負けた勢いでログアウトしてしまったのでログインしなおす。

 さっきのアレはいったい何だったんだろうか……。

 ログインすると、まだ自分のアバターは闘技場の選手用ロビーにあった。待機していたり試合が終わった選手のほとんどは今行われてる試合をモニターで観戦しているようだ。今戦っているのはアメリカの選手と中国のそこそこ有名な選手だ。

 とりあえず試合を見に来ているギルドメンバーのところにでも行こう。先程の試合について何かわかるかもしれない。今気が付いたがメンバーからメッセージも来ている。これはあとで怒られるな……。「ごめん急に飯に呼ばれてた」とでも送っておこう。

 メッセージを送信すると、場が静まり返っていたのがわかった。

 「え?」

 思わず小さく言ってしまう。何か悪いことしましたっけ?

 だが周囲を見渡すとその静寂の原因が俺じゃないことがわかった。みんなが注目する先、そこを見ると先程俺を倒した無限王ヤマトが立っていた。

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