速度制限者戦記
Daika
青王杯
第1話
2021年、東京オリンピックが終わり、否が応でも冷めていこうとする日本に突如として現れた次世代VRオープンワールドゲーム【インフィニティ】。好きな姿のアバターを作り、人間のいる世界と強大なモンスターたちが支配する世界を冒険する……。一見どこにでもありそうなこのゲームは次世代型VRゲーム機【ニューワールド】のおかげで今や世界中でプレイされ、他の追随を許さないものになっていた。
そして俺は、インフィニティの人間界で行われる世界トーナメント【青王杯】本選のステージに立っている。古代ローマのコロッセオを近代化させたような広大な闘技場、観客席にはぎっしりとお客が入っていて歓声を上げている。
本来、本選でもトーナメント一回戦はここまで盛り上がるものではない。俺が本選までの予選で少し話題になる戦いをしたというのもあるが、一番の原因は今目の前に立っている対戦相手、【ヤマト】だ。
闘技場内に無駄にいい声のリングアナウンサーの声が響く。軽い挨拶が終わった後、選手の紹介が始まる。
「本選一戦目から彼女の姿が拝めるなんて!今年の青王杯は最初からボルテージマックス!前回無限王杯優勝者!!容姿端麗!最強無敵!一撃必殺の大和撫子!!ヤぁぁマあああああぁぁ!トォォォォォっっ!!!」
歓声が一気に上がる。あまりの音量にボリュームを下げた。そう、ヤマトとは男ではない、女性なのだ。
目の前にはロングの銀髪で生足がまぶしい可愛い女性アバターが立っている。手に持つ武器はその可愛さに似合わず、二メートルはありそうな幾何学的なデザインの鉄の棍棒……。赤い目は鬼をイメージさせてこちらを凍てつく視線で見つめている。
「対して!今大会の注目選手!予選では数々の相手を動かずに拳銃で撃ち抜き倒しまくった!ブラックホースになれるのか!?はたまた、王者に一撃でやられてしまうのかぁ!!!??カケルゥゥゥゥ!!!!」
さっきより少し小さな歓声と小さなブーイングが上がる。よかった。ボリュームを上げよう。ブーイングは「チーター野郎」とかだが、この大会、中継もされて凄い賞金もかかってるし運営が厳しいからチートで参加なんかほぼ不可能なんだけどなぁ……。
気を取り直しつつ、目の前の相手に集中する。もうすぐ試合が始まるのだ。やはり戦闘は緊張する。賞金もかかっているし、本選だし、心臓がバクバクしている。
5からカウントダウンが始まる。
4
3
2。ヤマトが棍棒を棒きれのように振り、構えた。彼女の戦いは動画なんかで予習している。一気に接近して棍棒で一撃で決める。決勝以外でほぼ二撃目を見れていない。
1。俺も銃を構える。銃はハンドガンの中で一番威力の高い【テンペストイーグル】というなかなか高い課金アイテム。素材を集めてお小遣いを貯めて課金した!負けるわけにはいかない!
開始のブザーが鳴り響く。
ヤマトは地面を蹴った。破裂音のような音が鳴り響くとヤマトは俺のすぐ右に位置取っていた。
速い!だが俺もそれは視えていた。俺の腕はすでにヤマトを捉えていた。この距離なら外さない!数発ヘッドショットして終わりだ。
発砲。一気に5発。
ヤマトは短いスカートを翻し、側転で避ける。しかしそれも視えていた。避けた先にも5発撃ち込む。
しかし、ヤマトはそれすらも腕の小さな小さな盾で弾いた。
「えぇ!?」
思わず声に出てしまった。あれ捌けるのか。
ヤマトが次に動く挙動を見せる。
やべ、決めきれないのは初めてだ。さすが無限王。俺はリロードも兼ねてスキルのジャンプ力を上げるブーストジャンプを使って距離を開けるために後退する。
着地。
ジャンプ中にリロードは済ませた。そしてジャンプ中にもヤマトの動きは視えていた。だから左前方数メートルに発砲した。
「なんなの……あんた」
女の声、ヤマトの声が右後ろから聞こえた。それがわかった時には俺は地面に叩きつけられていた。
「ぐぉえ……?」
俺は変な声を出していた。右上に映る緑色だった自分のHPは真っ赤になり、その真っ赤なゲージも消えていき、なくなった。一撃でやられたのだ。
振り返ると俺の返り血を浴びた生足とスカートの中がチラリと見えていた。ヤマトの顔を見ると訝しげな顔をしていた。
試合終了のブザーが鳴り、今日一番の歓声が上がった。
俺はボリュームを下げた。
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