7-3

◆◆◆


 ――長い夢を、見ていた。


 あまりの熱気に、息を吸った傍から肺が焼かれていくのが分かる。

 走るうち、豪奢なドレスの裾に火が燃え移った。

 躊躇いもなく破り捨て、彼女は塔を駆けあがる。


 最上階、彼女の他には訪れる者も最早いない部屋に辿り着き、求める人影が見当たらないことを知ると、彼女は崩れるように膝をついた。


 一度、二度、名を呼んだ。返事はない。

 半狂乱になって、部屋中を引っくり返した。それでも、見つからない。


「どこなの、どこにいるの……お願い、返事をしてちょうだい」


 重たい足を引きずって、彼女は銀の器の前に辿り着く。

 いつもあの子はそれに水を張って、大人たちが訪れるのを待っていたものだ。

「種」を持っているのは彼らだけだったし、月の光の中でしか、魔法の花は咲かなかったから。


 ことん、と何かが傾く音がした。

 振り返れば、戸口に佇むのは、探し求めた人の姿だ。


 熱に頬を火照らせ、不安げに俯く我が子を見て、彼女は安堵の笑みを浮かべる。


「そんなところにいたのね。さあ、お母さまの傍へいらっしゃい」

「暑くて目がさめちゃったから……お母さま、どうしたの?」

「……。みんながね、悪い魔女を倒しに来たのよ。ここは危ないから逃げましょうね」

「どこへ逃げるの? お母さまも一緒?」


 ふくふくとした幼子の手を握り、彼女は泣きそうに「彼」を抱き上げる。

 柔らかな絹の感触、品のいい香水の匂い、そして温かな母の腕の中。


「……ええ、一緒よ。一緒に逝くの。お空の向こうにはね、それは綺麗な国があるのよ」


 あまいあまい、蜂蜜の色をした長い髪が、風に弄られ散らされる。

 先の言葉は知っている。

 聞いてはならないと、反射的にそう思った。


 忘れていた。

 忘れたつもりでいた。

 けれど確かに、宙に舞う寸前、母は言ったのだ。


「産んでしまって、ごめんね、レグルス……」

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