上手な言葉が見当たらない

4-1

『ご懐妊、おめでとうございます』


 そう言って深々と頭を下げたのは、黒いローブを纏った小柄な人物だ。

 少年とも少女ともつかないが、どこか舌足らずな高い声は、少なくとも大人のものとは思えない。


 白っぽい髪を長く伸ばし、きっちりと後ろで結ったその子供を見て、「私」は鷹揚に微笑んだ。

 今この身に宿ったものが愛おしくてたまらない、止めどなく溢れる幸福感のままに、丸く膨らんだ腹を撫でる。


『ようやく来てくれたのね。あなたに一番に知らせたかったのに、なかなか顔を出してくれないのだもの』

『……恐れながら、妃殿下』


 親しげに話しかける「私」とは対照的に、ローブの人物は絨毯すれすれまで頭を下げて平伏したまま、震えた声を絞り出した。

 我が身を抱くように肩口を掴む手は、薄ら汗ばんでいるように見える。


『……視えたのね』


 どこか諦念を含んだ声で、「私」は呟いた。

 ローブの人物は最早隠すことなく嗚咽を漏らし、真っ赤な絨毯が涙を吸って鮮やかに色を変える。


 沈黙が続いた。


 永遠に続くかと思えた静寂を破ったのは、「私」の方だった。


『……もう、名前も決めてあるのよ』

『! ですがその子は』

『聞いてちょうだい。あのね、男の子なら、レグルス。女の子なら……』

『……っ、産んじゃいけない、その子はだって――』


 狼狽してか、畏まった口調が崩れ、涙で声を詰まらせる「預言者」を見つめ、穏やかに「私」は首を振った。

「私」は知っているのだ。預言者が何故このように取り乱すのかも、今まで顔を見せなかったその理由も。産まれた子が何を成すのかも、よく知っていた。


『いいのよ。この子はきっと、わたくしを殺すでしょう』

『だったらどうして!』


 答えなんて、幸せな母親ならきっと誰もが知っている。だから、彼女は口にしない。


『……。あなたのように、優しい子に育ってくれるといいわね。早く会いたいわ』

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