第一章 かつての町並み
――解凍プログラム開始――
――解凍完了、蘇生プログラム開始――
――蘇生中……意識レベル上昇……――
――蘇生プログラム完了、意識レベル既定値を突破――
カプセルの中で目を覚ます。頭の中がぼんやりと霞がかっていてはっきりとしない。随分と長く寝ていたような感覚。徐々に覚醒していく意識の中で眠る前の事を思い出す。
身体の中心が、心臓を中心に熱を持つ。血管に暖かなものが流れていく感覚でようやく意識が覚醒する。ゆっくりとカプセルの中で身体を起こす。気づけば蓋の部分は開け放たれていた。
研究所の中は非常灯以外の明かりは無くひんやりとした空気で満たされていた。
「父さん……父さん!」
呼びかけても答えはない。電源が落ちているのか、それとも館内機器に不備が発生しているのか。
ふと、脳裏にカプセルに入るまでの記憶が甦る。身につけていた物だけを残して消えていく人々。カプセル内で見た、ひび割れ砕け七色に染まる空。そのどれも現実感がなくまるで夢で見たことかのようにぼんやりとしていた。
「外に出よう……ここにいても何もわからない」
研究所の外を目指す。エレベーターホールへ向かいエレベーターを呼び出す。だがボタンを押しても反応は無くエレベーターの駆動音もしない。おそらくは電力が来ていないのだろう。仕方なく階段で上がっていく。
長い階段を登った先、一階のエレベーターホールにつながる扉を開く。そこは、森の中だった。
夏特有の少し熱気を持った風に葉擦れの音。鳥達の囀りとセミの声が聴こえる。かつてエントランスホールだったそこには、かつての名残を見せる残骸が木々に侵食されていた。朽ちた残骸を見るに相当の時間が経過しているのが見て取れた。
「……僕は……、一体どれだけ長い時間寝かされていたんだ」
ゆっくりと駅に向かって歩を進める。町の殆どが植生に覆われていた。かつての駅前に近づくに連れて建物の損傷は激しくなっていき、駅ビルはもはや原型をとどめていなかった。辛うじてペデストリアンデッキが原型を留めているだけだった。
ペデストリアンデッキの上を歩いて行く。デッキの上も様々な植物によって崩落していたがなんとか人が歩けるだけのスペースがあった。よくよく見ると兎やリスと言った小さな動物も野生化しているのかちらほら見つけることが出来た。
都市モノレールの線路にはつるが巻き付き、隣接する樹木のせいでまるで壁のようになっていた。
かつての面影を残した懐かしい町並みを歩いて行く。そのどこへ行っても人の姿は無く、崩壊した建物とそれを覆う植生、そして野生化した動物の姿だけだった。
「こんな状況じゃなければ平和的なんだけどね……」
デッキの上に据え付けられた比較的原型を留めていたベンチに座る。かつて見た景色に重なる全く異なる光景を眺めながらどうするかを考える。
「この際生き残りが何処かに居るかはもう重要じゃ無いな」
考えをそのまま口に出す。考え事をする時の癖だった。
「野生化した動物が多いなら肉食の……例えば野犬などから見を守る必要がある」
周りを見渡す。どの建物もボロボロで見るからに崩落の危険があるのがわかる。
「住む場所も考えないと……食料、水、寝床辺りが目下の最重要課題かな」
その時だった。どこからか唸るような声が聞こえてくる。それも一つでは無く幾つかの唸り声が聞こえてくる。デッキの下、階段の傍から聞こえてくる。その音は徐々に大きくなり、やがてその姿を表した。
「なっ……」
そこに現れたのは、三つの頭を持った大きな犬だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます