デジャヴ
見慣れたようでよく知らない夢を見た。知らぬ間に眠っていたようだ。一秒が惜しいのに……。
俺は夢の内容を思い出す。確か、小学生くらいの背の俺が年下の女の子と連れ立って歩いているところを、不良大学生みたいな出で立ちの集団に捕まって……
もやもやしていて思い出せない。ただ、一つだけ言えることがある。俺は、女の子があらぬことをされるのを、ただ見ていたということ。
女の子は全てが終わった後俺の方に駆け寄ってきて笑ったけど、その笑顔は本当に悲しみを含まないものだったのだろうか?
俺は女の子が性的趣向の対象にされもてあそばれるのを黙ってみていた。それはあまりにも罪深いことで、自分の男が(ただでさえ底辺ニートだというのに)さらに下がった気がした。早く歩き出したかったけどどうせならもっと詳細に夢を思い出そうとして、金槌で殴られたような衝撃が後頭部と首筋に伝う。
――本当に殴られたのかもしれない。首が回らない。全身が痺れ、麻痺状態になった。
思い出した。夢のなかの俺もこんなだった。電撃に撃たれたように動けなくなって、目の前で繰り広げられる犯罪に沈黙で加担した。
そう、見て見ぬふりをすることは犯罪だ。罪を俺は背負っていた。そして、あの女の子は
なんでそんなことを忘れていたんだろう――。これでは
俺が肉体を放棄して、爽を生かす。その選択肢が鎌首をもたげるように選択肢として蘇る。
音楽で人を救えると信じていた。俺がアニメやゲームの音楽で心躍り、友情と勇気を学んだように、俺も世界の子どもたちに、例え言葉が通じない相手でも、感動を届けられると思っていた。でも、俺が心躍らせた音楽は歪んた人間によって作られ、俺も誰一人救えぬまま人生を終わらせようとしている。
世界を救えないならば身近な人だけでも救いたいと思うのは罪なのだろうか?
心が自分に問う。
罪を犯した人が善を為してはならないのか?
自分に付きつけられる自分の問い。
「そんなことない!」
例えかつて自分が爽という女の子を見殺しにしたとしても、今の爽を救ってはいけないという法はないはずだ。
爽を救う……例えあの子の記憶が消えようとも。俺の記憶が全てあの子から消えようとも。己の手で幸せにするという、約束が果たせずとも。
『遅い』
声が響いた。
『三日の期限が過ぎた。彼女の魂は怨霊化した』
「嘘だ」
『なに……?』
「爽はまだ生きてる! 早く爽を生かす方法を教えてくれ!」
『……』
声は沈黙した。非難しているような、冷たい沈黙だった。
『まだわからないのか? お前は生きねばならん』
「――ッ! わからずやはお前じゃないかッ! 俺は思い出した、俺は罪を償う!」
『お前はまだすべてを思い出しちゃいない。タナトスの遺言で俺はお前が記憶を取り戻す手伝いをしているが、本当は今にでもお前を生き返らせてやりたいくらいだ。お前はここで死んではならん。爽を殺して生きよ』
わけがわからなくなった。俺はなにもない中空に拳を突き上げた。そうでもしないと気が狂いそうだった。
この暗闇のどこかにいる、爽の魂を狩る旅は、再開された。
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