寿命
一日目
俺は文字通り浮遊していた。
ここはどこだろう。なんだが世界そのものが危うく、繊細な気がした。
ふと、遠くに光が見える。弱い光だ。まるで生命が今にも消えようとしているかのような……。
「うわぁあぁあッ」
凄まじい遠心力で振り回され、身体にかかるGに吐き気を催す。そして乱暴に放り出された。「まったく手の焼ける……」という声が聞こえた気がした。「
気が付くと、俺は部屋にいた。壁とカーテンで仕切られた、四人部屋。病室だろう。
地面を蹴ってみる。現実感のない感触が足の裏に伝わり、力の割に進まない。あくせく泳ぐようにしてカーテンにしがみつくと、それを引っ張った(驚くべきことに、この世の物質は人外の自分とも反応するようだ)。
「
動くために引っ張ったカーテンはあらぬ方向にめくれ、なかにその人が見えた。力の伝わり方が予想できないため、苦戦しながら彼女に近づく。
その頬に、触れたかった。しかし、俺は思わず手を引っ込める。
「う……ううッ」
俺が近づいたことで、彼女は明らかに呼吸に難をきたした。心拍を測るあの装置が赤く点滅する。医療ドラマでしか見たことがないし、これからも見ないだろうと思っていた光景が目の前で繰り広げられる。看護師が駆けつけ、遅れて医師も来た。
なにかを
医師たちは去った。彼らに続き自分も去ろうとした。しかし、カーテンは俺を拒絶した。文字通りの意味の鉄のカーテンにでもなったかのように、俺の拳はこんなやわな布にはじき返される。
何度か床に這いつくばり、俺は諦めた。ここから逃れる術は恐らく封じられたのだろう。
俺は爽のいるベッドの対角線上に力なく座った。もちろん彼女に極力近づかないようにするためである。空間移動で身体の芯が疲れたのか気分が悪くなり、死神の鎌に寄りかかるようにする。
現に帰って来て間もないせいか、人外なのに眠気がする。俺はそれに吸い込まれるように落ちていった――。
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