輝石
「ちょっとこの石を見張ってて欲しい、報酬は弾むから。」
そう頼まれて断れる程の立場に私は居なかった。そして豊かでもなかった。一見、そこらへんに転がっているような石と然程違わない。併し、盗もうとする人がいるらしい。
数日見張るだけでよい、大抵の衝撃では壊れない。そう言われたものだから、手で転がして遊んでいた。ただの石ころが私よりも大切にされているのは気に食わんが、まあ金のなる木ならぬ金のなる石だ。守ってやろうではないかと思った。
よくよく見ればお前は綺麗な色をしているではないか、青、蒼、碧。光の差し込み方で印象が変わる。転がしながら、何とも言えぬ悔しさを感じ、転がすことで人間の偉大さという虚構に自分を酔わせた。泥棒らしき者は見受けたが、私が横にいるせいで諦めてしまったようだ。
軈て私に見張れと頼んだ商人が石を回収し、富豪らしき人物に売り飛ばした。私はただ報酬に目をやり、如何に腹を満たそうかと頭を動かすだけであった。
金を使おうとした時、ふと石のことが気になった。買い手はあいつをどう見ているのだろう。そもそもあいつは何の石だったのだろう。そして、結局私は何の変哲もなさそうな石ひとつすら、手元に留めておけない程度の人間なのだなと。もう遅い。私が情をかけ守ってきた物は、もう手元に無い。
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