遠くない過去に素晴らしい作品を産み出す作家がいた。彼か彼女かも知らぬが、兎に角その人の作品は素晴らしかった。感動させることも一流、読み手悩ませることにも長け、読破後に押し寄せた高揚感は読者を魅了していた。

 軈て、その作家を模倣する者が現れた。作風の模倣、二次創作、空想の作者のコスプレ....。其ういった事には目もくれず、コメント1つ残さぬまま作家は作品を紡ぎ出し続けた。曾ての作風と今の作風は、全然不変である。文体まで変わらずに人を魅了し続けている。

 “曾て”が作風だけではないことを知っているのは“私”ぐらいだろう。金に困ったら流行りに乗るか、流行りに真正面から逆らうべきと誰かが言っていた。いや、私かも知れない。人並みという波に乗り、マジョリティーの共感を得る物を作り続けてきた。“私”を分析しようとした人は山ほど居た。人々にこう思わせたいのか、ああ思わせたいのだろう。全くの大違いだ。私はただ金が欲しかっただけだ。

 其の“作者”は相も変わらずに“生きている”。私ではないだけで。機械は便利だ。流行に乗るのもそこらの人間より容易い。機械の作成者と作品の販売者は私にある程度の著作料を渡している。そして私は“私”を貸した。きっと何年後も何十年後も“私”は生き続けるのだろう。さて、私は誰。

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