ワタシ
惹かれ合うという事は日常に於いて能く能く有り得る。偶々自分と似た箇所を知人に見付けたとある人間は、其れを利用しようと考えた。相手を観れば自分を知れるのではないか、と。而してその人間は相手を観続けた。自分がし得る失敗を予め相手にさせ、未然に自己の不始末を未然に防いだ。
時の流れは確かなもので、人生何が起こるかはわからない。軈て、知人と離れる時が来た。問題はその数ヶ月に起こった。自分の意見が見付からないのだ。知人が如何斯うするかを常々考えて動いていたが、常に更新されつつある存在である人間を完全に不変なデータ化する事は不可能だ。想像しきれない事象が増え、行き詰まったのである。
幸運にも、其の人間と趣味の合う人を新しく見付けた。而して其の人間は、新しく、“彼”に成った。それは、本物の“彼”が其の人間の元から離れるまで続いた。次の環境に、亦た其の次の環境に身を置いた時も、其の人間がやることは変わらなかった。只、楽に楽に動こうとしたのである。
数十年後、其の人が亡くなる数日前、何となく昔を懐かしむ為に記憶に身を投じていた時、ハッと心が虚無に襲われた。
「わたしはなに?」
其れを聴いた家族や友人が発した言葉すらその人間は信じられなかった。其れも亦た“誰か”の“鏡”なのではないだろうか。もう何も信じられない、と其の人間は絶望に沈みながらこの世を去った、
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