レンタル

 レンタル友達、レンタル恋人、最近はレンタル業が流行っているらしい。金がなかった私は、とあるレンタルサービスのバイトを始めることにした。バイトの面接は至って簡単だった。お客様の好みや思い込み、思い出に合わせて動くこと、それだけだった。

 初仕事先は綺麗な少女の部屋だった。桃色に統一しようとして断念した感じが部屋に散らばっている小物からよくわかる。「取り敢えず座って」と少女は彼女が座っているベッドを指しながら言い、私は静かに彼女の横に座った。暫しの間、沈黙が流れる。「ごめんね」と言われる。「もういいよ」と返す。

 わっと少女が自分に抱き付いた。洗髪料の香りがふわふわ漂う。頭を撫でるのも仕事のうちなのだろう。彼女の泣き顔は可憐だった。徐に彼女は立ち上がり、予め用意したであろうクッキーを皿に盛り付けて運び、またベッドに座った。「これが好きだったんだよね」ローズマリーが香るクッキーを静かに2人で食べる。あまり好きではないが、ここで自分の気持ちを言うことはタブーである。後から運ばれてきた紅茶と一緒にクッキーを消費し、時間だからと帰り支度をする。

 来たときよりかは晴れやかな表情で私を見送る彼女は、姿が見えなくなるまでずっとドアの前に立っていた。気休めにはなれたのだろうか、私は後日振り込まれる給料の事と共に彼女の事を軽く考え、そして帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る