手札
曾て争いの絶えない二国があり、その原因を究めようと努める第三国の者がいた。何時頃からかその研究者は片方に味方し、軈て強き協力者を得た側は他方を力で捩じ伏せ、苟且の平和が訪れた。
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私は中立を守れなかった。過ぎたる知は愛着とも愛情とも言える感情を齎す。後悔すら出来ない程に。
争いの種を探すという日課を熟していた時に偶々彼女を知った。不思議と惹かれてしまったが最後、私の彼女を悲しませたくない心が職に対する誇りを棄てさせた。艶やかな髪を、繊細な指先を、そして花と比べることすら愚かに思えるような笑顔を喪いたくなかった。故に私は知り得る全ての情報をその国に売った。負けたら彼女が彼女でいられなくなるのを危惧した。
明らかに有利であった戦いは直ぐに終焉を迎えた。国民皆が幸福を追求し、彼女も幸福と言える行為、即ち結婚をしてしまった。諦めは持てていたから驚きはすれど失意の底に落とされることはなかった。成る程、矢張り彼女は美しい。無垢の象徴色がよく似合う。決して私には向けてくれなかった笑顔を眺めながらそんな事を考えていた。
平和な世の中で戦の研究者は軽視される。合併された隣国の情報なんざ、何の手札にもならない。彼女しかみなかった私は、何もかもを喪った。職も、信用も、そして彼女も。平和な未来を期待していたあの笑顔を度々想い返しながら、私は独り静かに消えてゆく覚悟を決めた。どうせ歴史に名を遺せるのは元々偉かった人だけだ。況んやこの裏切り者をや。忘れ去られるのが妥当である。
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あーあ、はやかったなぁ。わたしももう結婚かー。なんかちょっと前まで隣の国と戦争みたいなことがあったらしいんだけど、やっと終わったみたい。いろんな人に結婚を勧められて、とりあえずしてみたんだけど、思ってたより楽しいね。相手、前にチラッと会ったお堅い近くの国の研究者なんかよりずっと話が面白いし。ほんと良かった。そういえばあの研究者はどうしてるんだろう…まあいっか、関係ないや。
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