スピンオフ

 完結された物語を前に彼はただ涙を流すしかなかった。一人のファンの望み通りの終わり方を作者がするとは限らない。そしてバッドエンドを嘆き、受け入れられなかった作品の消費者は自らが望む終末を各々創り出す。

 数年後、彼は名作と評されるハッピーエンドを創り上げた。原作の設定を忠実に守り、且つ誰も傷付かない終わり方。非の打ち所のないものであり、そして瞬く間に広まった。

 軽視されたものは2つ。1つは原作、そしてもう1つは彼自身の人生。彼はあまりにも多くの時間を創作に費やしてしまった。友人も職も失い、作品以外何も残らなかった彼は、そのうち作品と共に忘れ去られた、晩年ひっそりも息を引き取った。

 偶然彼の事を知った若者が1人。かつて名作を創った人の虚しい最期に心を傷め、理想的な終末を創り出そうとしていた。せめて彼の人生だけでも幸せなまま終わって欲しい。そう思いながら私はただ独り、廻る時間の中に佇んでいる。ところで原作は何だったのだろうか。

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