完璧

「 おめでとうございます!あなたは完璧な人生を歩めました!」

機械音声は嬉しそうな言い方で、私の人生ゲームがクリアされたことを告げた。


 何回前かは忘れたが、いつか本で一度きりの人生しか歩めない世界を読んだことがある。失敗してもその失敗が消えない可哀相な世界だという感想を持った。勿論現実は違う。そもそも成功しないと先に進めない。"振り出しに戻る"が大量に埋まっているすごろく、と言うのが一番いいのかもしれない。

 前回は彼女にふられて振り出しに戻った。前々回は目の前で起こった交通事故を無視したら強制的に戻された。その前は確かむしゃくしゃして人を殴ったからだろう。これ以上は覚えていない。取り敢えず、何か失敗すると赤ん坊からやり直すのである。

 自分も周りも、何度もやり直している人ばかりで、"長生き"をしている。流石に今回はもう失敗しないだろう。横にいる、私よりも経験豊富な妻に言ったら無言で微笑まれ、幸せを覚えた。


 予想通り私は何一つ失敗せずに逝くことになりそうだ。寝床で妻に愛と感謝を告げ、安らかに眠りにつく。私はとても幸せだった。妻に「なんでわざわざ死に行くの?」ときかれるまでは。

 もう遅かった。遠くなっていく意識の中、老いてあまり働かなくなった頭でも辛うじて、この世界の人達はやり直すことで不老不死を手にいれていることに気付いた。こうして私は人生を終えてしまった。


 白を基調とした空間のベッドで私は目が覚めた。


「お疲れ様でした。人生ゲームは楽しかったでしょうか。それでは、さようなら。」

続けてそう言われ、私は夢からまだ戻りきれないまま、どこから出てきたのかすらわからない刃物に動脈を切られ、もう一度命を失った。

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