ショートショートの成り損ない。

空気

伝染病

 伝染病が流行っているらしい。X氏の周りでそんなことが騒がれていた。

 X氏は目立ったところがない平凡なサラリーマン。給料も仕事能力も人並みで、飛び抜けて良いところは特にない。上の人がなんとかしてくれるだろうという考えを持っていて、こんな噂がまわって来たときも「またお上の方々がなんとかしてくれるだろう」と思っていた。

 しかしどうやら今回は違ったようだ。国は何も対策出来ていない。しかも伝染病としかわからず、何がどう感染するのかすらわかっていないらしい。

 噂だけがちらほら聞こえてきてX氏は少し不安になってきたが、彼に何か出来るはずもなく、ただただ家と会社を往復するだけの毎日を続けていた。

 そしてついにと言うべきかやっとと言うべきか、同僚が彼に伝染病の話をしてきた。なんと恐ろしい病なのだろうか、どうやらこれは薬が効かないもので、しかも感染した人は自らそれを広めたくなるという。

 これは確かに危ないものだ、急いで皆に伝えなくては。そう思ってX氏は会う人会う人に伝染病の話をした。


 国民全員その伝染病の話で持ちきりになった頃、ようやく政府もその話をするようになった。しかし今ひとつ解決策は打ち出さなかった。

 国中が大混乱。どの報道機関でも伝染病以外の話をしなくなったある日、耳栓をつけた科学者がテレビに出てこう言った。

「研究の結果、正体がわかりました。伝染病について聞いたら感染し、それを他人に広めたくなる病。今では国民全員が感染者です。」

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