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 本当は店の奥の方にある四人がけのソファの席に座りたかったが、気後れして座れなかった。それに先客がいた。坊主頭でうっすらと髪の毛をターコイズブルーに染めている女性と長髪で鼻にピアスをした男性が座って話していた。

「あぁ、今回の芥川賞もなんかパッとしないねぇ」

 坊主の女性がそういうと一口コーヒーをすすった。男性の方もコーヒーを飲みながら聞いている。

「二回連続で新人賞取った作品が直接芥川賞が賞を取るなんてさ。しかも、今回はダブル受賞。快挙だそうだよ。どう思う?」

 女性の声は店内にいる客に聞こえるようなボリュームだった。有希子は注文していた紅茶が来るとスマホで例のメッセージのやりとりをしていたから、彼女たちの文学談義には全く興味がなかった。

「たぶん、あれだな、今は純文学は過渡期なんだな。テクニックからオーソドックスなものになっていくのんだな。それと、あんまり文学が客に媚びないで選考員が選ぶのかもしれないな。と私は思ったよ。それとな――」

 有希子は伝票を持って立ち上がりレジに向かった。

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