チャプター:3 ~リア充、爆ぜる~
かれこれ2時間は経つ。
ウェルさんを連れ宿屋の食堂を出て、二人でただ歩き続けている。
場所はその眺望により観光箇所として有名な王都の外郭の上を。
宿から外郭までは30分もしないで着いた。最初はどこかでお茶でも飲みながら話を訊こうと思ったが、オレの誘いに反応せず、夢遊病患者のように先を行くウェルさんを追い今に至る。
「凄い見晴らしですね~、ウェルさん。王都に入る時外郭の上に人影が多かったので、てっきり厳重な警備をしているものだと思っていたのですが。これは王都に来たら一度は此処を歩いてみるべきですね~。」
沈黙に耐え切れず話を振るが、“返事が無い。屍のようだ”と思わず言葉が浮かんだ。
今朝この男は勇者を辞めると呟いた。
パーティーメンバーは誰もその理由を知らない。
その様子からは精神的に参っている事が伺えるが、放っておく事も出来ないとみんなに言われ、オレが面倒を見ているが、本当に面倒だ・・・
正直“勇者を辞める”と言われてもオレとしては『あ、そう。』くらいしか感想がない。
オレは御者で、そもそもこのパーティーに居るのも幼馴染のカーリを見守る為だ。
「それで、ウェルさん。そろそろ話してくれませんか?」
「・・・・・・」
「はぁー。何があったかは知りませんが、勇者という立場をそう易々と捨てられるわけないですよ。まず回りがそれを許さないでしょ。それに国王にはなんて言い訳するのですか?」
「・・・・・」
「あ、そう言えばウェルさん王城には参内したのですか?久しぶりの王都なのですよね!?国王から使いは来ていないみたいですが・・・」
「・・・・・・」
外郭を歩き続け更に2時間。しかしまだ全周の1/4も進んでいない。王都、どれだけの広さだ・・・
実はオレ、初王都であり、こうして風景を見ながらただ歩いている事は苦になっていない。どうせなら一人で来てみたかった位だが。
ここから見る景色は絵画の様である。眼前に広がる草原と湖。様々な緑が鮮やかなコントラストを表現している。願わくば丸一日ここで、この風景の時間毎の様変わりを楽しみたい。
夢遊病患者が立ち止まり、外郭の縁に腕を置き蹲る。
「ウェルさん、顔を上げて周りを見てみてください。この自然が創りだす芸術に比べたら、きっとウェルさんの悩みはちっぽけな物に感じると思いますよ。」
「ケーゴ・・・・・」
「はい。」
ようやく口を開いたかと思ったが、また沈黙が続いた。
陽が中天を過ぎ傾き掛ける頃、ウェルさんが顔を上げた。
額は赤くなり、服の皺の跡をクッキリと浮かべている。イケメンなだけに残念感が半端ない。
「ボクは・・・勇者を辞める─」
ええ、それはもう聞きました。そのまま理由を宣って下さい。
「そうですか。ではこのパーティーは解散ですね。」
「・・・あぁ。」
「分かりました。ですがこのまま帰ってはオレの仕事に支障が出ます。いえ。オレだけではなく、みんなの今後にも。」
「なぜだ?」
「考えてもみて下さい。突然勇者パーティーが解散。メンバーは次の仕事を探しますよね。その際元勇者パーティーだと知れれば、回りはこう考えます。勇者からクビにされた奴だと。それでも冒険者ならソロで食い繋ぐことは出来るでしょう。ですがオレは違う。家は御者家業です。勇者パーティーを解雇されたと思われて、誰が家に仕事を頼みますか?事実では無いと言っても風評被害は免れません。それをウェルさんは補填できるのですか!?」
「・・・すまない。」
「謝るくらいなら辞めるなんて簡単に言わないで下さい。」
その後また沈黙が続いた。
辺りを黄昏が包む中、徐にウェルさんが外郭の縁の上に登った。
「なにしてるんですか?危ないですから降りて下さい。」
「綺麗な風景だな。」
其処には夕日に照らされオレンジのコントラストに包まれた草原と湖。カメラを持っていたらシャッターを切っていただろう。
「そうですね。思わずため息が出でそうになります。」
「ケーゴは意外とロマンチストなんだな。」
「ウェルさん程ではないですがね。」
ウェルさんはキザでイケメンで、ロマンチストで、女好きでイケメンで、アホで残念で面倒くさいけどイケメンで、爆ぜろ!と常々呪っているけど、イイ奴なんだ。イケメンだけど。
仲間想いで、男同士だとノリもいい。イケメンなのに気さくで、キザだけど嫌味が無い。
あ、オレはもしかしたウェルさんに憧れているのかな・・・・
「そろそろ戻りましょう。みんなが待っていますよ。」
そう言って来た道を戻ろうとするオレにウェルさんが話し始めた。
「・・・昨夜、みんなとディナーを取った後ボクは一人BARに行ったんだ。」
オレはウェルさんに向き直って話の続きを待った。
「そこでナディアと出会った。」
「そうですか。」
「そして一目惚れした・・・・」
それがどうした。とは言えず無言で話の続きを待った。
「暫く酒を楽しんだ後、ボクの誘いにナディアは部屋に案内してくれた。」
えと、生々しいお話は遠慮させて頂きたのですが。なに遠い目で昨夜の事を思い出しているんですか。リア充爆ぜろ!!
「・・・忘れられない夜となった。」
いや、だからその先はお腹イッパイですよ。
「もつれる様にベッドに倒れ、貪るように唇を奪い合い──」
・・・知り合いの絡みなど聞くに堪えない。顔を引き攣らせたオレは放っておかれたまま話は佳境に入ろうとしていた。
「ナディアは素敵だった。一方的に僕は服を脱がされそのテクニックに己を失ってしまった。そして僕は何もしないまま昇天させられた・・・・」
「つまりそんな素敵な彼女に、“一夜だけの関係だからもう関わらないで”と言われ傷心してしまった訳ですね。」
下らない。そんな事でこんな騒ぎを起こすとは。やはりこいつはアホだ。話を切り上げよう。これ以上は耳に毒だ。
「違うんだ。彼女じゃない・・・・“彼”だったんだ──」
いや~~!耳が腐るぅ!!
苦悶の表情でそう告白するウェルさんに、掛ける言葉が見つからない。
確かにそんな事を経験してしまったら、この先冒険を続ける気にはなれないですね。分かりますよ。オレがウェルさんの立場なら自殺も考えてしまうかもしれませんから。
昨夜か。セーブした後の事なら回避できるな。仕方ないですね。一肌脱ぎますか。
「・・・・そ、それは。あ!ほら、人より斜め上・・もとい。一つ上の経験が出来たと考えれば・・・」
我ながらいい加減な慰めだと思うが、これ以上は話を続けても意味がない。とっとと切り上げてデロリアスの元に行かないと。
「違うんだ・・・」
おや、まだ話がしたいのですか。吐き出したいのですね。もう少し付き合うのは吝かではありませんよ。
「ウェルさん、自暴自棄になるのは分かります。ですが今を乗り越え宿に戻れば“無かった事に出来る”と思います。」
「違うんだ!」
歯を喰い縛りながらそう叫ぶウェルさん。では何に苦しんでいると言うのだろ?
「まさか!彼に手を掛けてしまったと・・・・」
オレは最悪な状況を想像した。
勇者パーティーは見目麗しくてはならないと提唱し、女性しかメンバーに選ばなかった程生粋な女好きなウェルさんの事だ。男に惚れ、男に手籠めにされたと知った瞬間、激高し相手を殺してしまったと。
何てことだ。最悪その行為がセーブ前であれば状況は最悪だ。とりあえず彼の部屋に行った時間を確認しなければ。
「そうじゃない・・・」
ん?殺めていない!?ますます分からなくなってきたぞ。
「あの人が男だと分かった後でも、ボクは快楽に身を浸してしまったのだ。」
なん・・・だと!?
恥じらう様に目を背け、そっと呟く。
「ボクはもう、彼から離れられない身体になってしまった。」
赤く染まった頬は夕日によるものであって欲しい。
そんなウェルさんをオレは表情を無くした顔で眺める。
「ボクはこれからの人生を彼と一緒に過ごす事に決めた。」
「・・・・・」
パシッ
外郭の縁の上に立つウェルさんに近づき、オレの胸の高さに有るその足を、服に付いた虫に対処するが如く払った。
「うぇ?うわぁーーーああぁぁぁぁぁ!!!!」
ゴシャッ
「きゃーーー!人が、人が~~!!」
「だ、だれか~!回復魔法!!」
「うぁ~。自殺かよ。」
「まだ若いのに・・・」
ザワザワ──
外郭の下に居た人々が騒いでいる。
ここは地上20m以上ある。
「バカは死ななきゃ治らないか・・・次は治っていればいいなぁ。」
オレは朱く染まった空を見上げながらそう呟き宿へ戻るのだった。
リア充、爆ぜた。
「おはようございます。」
いつも通り朝の一仕事(デロリアスの世話)を終え、宿屋の食堂に行くとみんなが揃っていた。
「おはよう。」
「おっはー。」
「おはよう。ケーゴ。」
「・・・・・」
レティスさん、シアさん、カーリは普段と変わらない・・・が。
ウェルさん、ジト目で見つめないで・・・
昨夜、夕食後一人飲みに行ったウェルさんを追い数軒のBARを回った。
“彼”と出会う前に回収したかったが間に合わなかった。
オレが見たのは“彼”と思われる美女(♂)と寄り添いながら歩く後ろ姿だった。
くっ。間に合わなかったか。かくなる上は・・・
“彼ら”が家に入る直前、オレは声を掛けた。
「ちょっとまったー!」
手を上げながら“彼ら”に駆け寄る。できればここで『ちょっとまったコールだー』とノリ良くアナウンスされたいところだ。
その声に二人が振り向きウェルさんが驚きの顔を見せる。
「ケーゴ、どうしてここに?」
オレとウェルさんを交互に見る“彼”に一瞥しウェルさんに対峙する。
「それはオレのセリフです。なぜウェルさんがここに?」
さて、一世一代の演技を始めよう。
「なぜって、彼女と飲み直そうって事でここに・・・は!みんなに何かあったのか!?」
呆けた顔から一転、真剣な眼差でオレに問うウェルさん。やっぱり根はイイ奴ですね。こんな状況でも仲間の心配が出来る。だからこそ貴方を救ってみせますよ。
「みんなは今頃宿で寝ていますよ。オレは何故ウェルさんがナディアと一緒にいるのかと聞いているのです。」
オレの言葉に二人が驚きの顔を見せる。
「ケーゴ、なぜ彼女の名前を?」
「まさかとは思いますが、人のモノをとったりしませんよね!?」
「え?」
「え?」
オレの前に並んだ二人がお互いの顔を見合わせる。
「ナディア!オレを裏切るのか!!」
深夜という事もあって、オレの声はかなり響いた。
「ち、ちょちょっと、アナタだれなの?」
「ナディア、君はケーゴの女だったのか?」
「え?知らないわよ!こんな子。」
オレとナディアを交互に見るウェルさんは驚きで口が開いたままだ。
「お・ん・な~??そうじゃないよなー!?ナディア。」
三文芝居の様なセリフ回しだが、素人にはこれが精一杯だ。
「な、なな何言ってるのボク?」
「ケーゴの女じゃないのか?」
まったく。ウェルさん“彼”の動揺をどう捕えたのですか。
「ええ、オレの“女”ではないですね。」
「そうか分かったぞ。ケーゴはナディアに片想いしていたんだね。でも受け入れてもらえず・・・これだけのイイ女だ。見掛けたら声を掛けてしまうのは仕方ないよね。ケーゴも隅に置けないな。でも、ナディアはボクを選んだ。だからボクがナディアと一緒でも問題ないね!?さ、入ろうか。」
そう言いナディアの肩を抱いたウェルさんが家の扉を開け入ろうとした。
凄いな。その無駄な推測。って、関心している場合ではないですね。
爆弾投下!
「そいつはオレの“彼氏”なんですよ。」
「!!!!」
ナディアが勢いよく振り返り、肩に置かれたウェルさんの手が解かれた。
「まて。さっきケーゴは“オレの女ではない”と言ったじゃないか!?」
「言いましたね。」
「言ってる事が滅茶苦茶だぞ。」
「いいですか、ウェルさん。オレが言った言葉を理解してください。そいつはオレの“彼氏”なんです。」
「????」
まったく、そこまで言ってもまだ分からないのか。
「言っている意味が分からないのだが・・・」
「ナディア、説明してやれよ。」
意地悪く話を振ると、硬直していたナディアは慌てふためいた。
「は?は!?な、なにを?」
動揺し過ぎだ。
「ナディア、ケーゴは何を言っているんだい?」
「わ、わからないわよ!こんな子供知らないもん。」
そろそろフィニッシュとしますか。
「ナディアは“男”なんですよ。」
両手で口を塞ぎ、驚きを露にするナディア。その隣には無念の表情をしたウェルさん。
「ケーゴ・・・残念だ。」
「は?」
「まさか、振られた腹いせにそんな事を言って相手を貶めようとするとは。見損なった・・・」
え?は?はい!?これだけ言って、それだけナディアが動揺を見せているのにまだ気付かない!?残念なのはアナタです・・・・。
「こんな奴放っておこう。」
ゴミを見るような目で一瞥くれて二人は再び扉を潜ろうとした。
くっ!仕方ない。最終手段だ。
ナディアの背後に回り、チューブトップの服を力任せにずり下げる。
「はへ!?」
「!!!!!」
絶壁を露にし間抜けな声を出すナディア。
それを見たウェルさんは時を凍らせた。
「これで分かって貰えましたか~?ウェルさ──」
バチンッ!
あれ?身体が錐揉みしている。これダウン回避不可ですよね?
左頬が痛い・・・なんでオレがこんな目に合わないといけない。
バタン!
勢いよく扉が閉まる音がし、ウェルさんが地面に突っ伏すオレを見下ろす形で立っていた。
「ケーゴ、君はまさか・・・」
ウェルさん、オレの苦労を分かってくれましたか。そうです。貴方を助ける為に一芝居打ったのですよ。分かってくれたからこの苦労も報われましたが。
安堵の表情を浮かべるオレにウェルさんは動揺しながら言葉を続ける。
「なんと言ったらいいか──」
お礼の言葉なら結構ですよ。オレはみんなの為に出来る事をしただけですから。
「・・・同性愛者だという事はみんなには黙っておくよ。」
それだけ言うと踵を返し行ってしまった。
オレ、救われない・・・・
「起きてからずっとこの調子なのだ。」
溜息を吐きながらレティスさんが説明する。
原因はオレです・・・はぁ。これから誤解を解くとしますか。
あーーーぁ!・・・面倒くさい。
「ねぇ、何とかできないケーゴ?」
「パーティーリーダーがこの調子なんだし、副リーダーのケーゴが何とかするのが責務というものでしょ。」
カーリ、オレは出来る事をしてこの状況を作ってしまったんだよ。それ以上何を求めると言うんだい。
シアさん、何度も言うよ。残さず言うよ。魔力あふれてる。(せいいぇ~す♪)
てめっシア!だからメド○―アは禁忌呪文だって言ってんだろ!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます