チャプター:2 ~御者の憂鬱な日々~

 オレ達は無事王都に着くことが出来た。

 そして依頼の郵便物、正確には手紙を届け先にもってい・・・かなかった。

 この依頼、一見すると簡単だが面倒くさい事に巻き込まれる事になっている。

 そもそもこの手紙は依頼を受けた街、マロアリ領主、ハイザク男爵から宮廷貴族で子爵のマサライ様宛の密書なのだ。

 どうやらこのお貴族様達は隣国、ローラシレとの貿易の際にかなりのリベートを受けており、隣国の貴族とも結託して私腹を肥やしていた。っと言うか現在進行形でその関係は“まだ”続いている。


 その手紙をオレ達が届ける際、手紙の蝋封がなぜか剥がれる事態が起こる。

 当然その手紙の内容などその時は知りもしなかった。

 マサライ様は胡乱な目をオレ達に向けるが、中身は見ていない事を勇者の名において誓いその場を切り抜けた。

しかしそれを危惧したマサライ様の動きは早かった。手紙を受け取った翌日にはその貿易路を凍結したのだ。しかも勇者パーティーを隣国の間者に仕立て上げ、之までの不正の濡れ衣を着せて来た。

 勇者候補とは言え、一介の冒険者と宮廷貴族。力の差は歴然だ。

 一夜にして勇者とその仲間は特別背任の罪に問われ窮地に陥る。

 身の潔白を証明する為試行錯誤するが、結局ウェルさんは逮捕された。

 レティスさんとシアさんは逮捕の際に抵抗し、衛兵に手を掛けてしまった。その事実によりオレ達の援護をしていた冒険者ギルドもこの件から手を引かざるえなくなり、後ろ盾が無くなったオレ達は散り散りに逃亡した。

 オレとカーリは王都内で潜伏を決め込み、レティスさんとシアさんは、ウェルさんを助けようと監獄に潜入。あえなく捕まった。

 その後、裁判が実施され証拠不十分として極刑は免れたが、ウェルさんは勇者格の剥奪及び出家を命じられ、レティスさんとシアさんは殺人の罪で犯罪奴隷となった。

 手紙を届けてからここまで僅か6日の出来事だ。

 

 この依頼もハズレだが、回避は可能だ。ようは手紙を直接届けなければイイわけである。

 その為少しだけ策を講じた。

 まず、依頼をギルドにて受ける。そしてその依頼に又依頼を掛ける。届け先は王都ギルド留めの受取人がウェルさん宛だ。そこで受け取った手紙を更に依頼に出す。街で見つけた、冒険者登録している孤児の一人に指名依頼し、受取サインを貰った依頼書をウェルさん宛でギルドに届けるという内容でだ。

 これで問題は解決した。

 

依頼の報酬より出費の方が何倍も掛かったが・・・

 孤児に貴族様自ら会う事は無く、使用人に手紙は託された。その際蝋封がどうなったかまでは関知するところではない。

 もし蝋封がまた剥がれていたとしても、どこで、誰が中身を知ったかは分からないだろうし、届けた子供が差出人から受けて王都まで持って来たとは考えないだろう。よって誰かがその子供に依頼したと調べるだろうが、依頼主の情報をギルドが簡単に教えるとは思わない。万が一ギルド内部で不正を働く輩が居たとしても、これだけ又依頼を繰り返した。オレ達へ辿り着く前にその貴族の行動にギルドが不信を抱くはずだ。


 無事依頼も達成され、みんなで数日王都の街を堪能したが、マサライ様から何かされる事も無かった。

 

 「さて、もう大丈夫だろう。今夜はセーブしておくか。」

 そう独り言ちて床に着く。

 

 「おはようございます。」

 いつも通り朝の一仕事(デロリアスの世話)を終え、宿屋の食堂に行くとみんなが揃っていた。

 「おはよう。」

 「おっはー♪」

 「おはよう。ケーゴ」

 「・・・・ぉはょぅ」

 レティスさん、シアさん、カーリは普段と変わらない。しかしウェルさんが・・・

 まさかとは思いますけど、一難去ってまた一難という慣用句を体現するつもりですか?

 さんざん面倒くさい事をした後だ、これ以上オレに迷惑を掛けないで頂きたい。

 「今日もいい天気ですね~。」

 オレはウェルさんを切り捨てた。彼に関わる事を拒んだのだ。

 「え?あ、そうだね・・・」

 カーリは今の彼を何とかしてくれると期待していたみたいだが、それを見事にスルーしたオレの反応に戸惑っている。

 「その、ケーゴ。じつ──」

 「今日はどうします?この後とりあえずギルドに行って何か依頼を見繕いますか?」

 レティスさんの言葉を遮り現実から目を背け続けた。

 「ちょっと、空気読もうよ。」

 シアさん、貴方がそれを言いますか?左右の手にそれぞれ炎と氷の魔力を纏らせてなにやら思案顔の貴方が。ほう、丁度対の威力になっていますね。それ、メド○―アでも撃つつもりですか!?

 「ケーゴ、ウェルさんがね──」

 だが、断る!

 「そうだ!今日は天気もいい事ですし、今日も休日にして各々自由に過ごすなんてどうでしょう?」

 張り付いたような笑顔で提案するオレをみんながジト目で見つめて来る。

 “絶対に負けられない戦いがある”

 なんたって、昨夜セーブしてしまいましたからね・・・・

 そんな事を思っているとモスキート音ばりの声で呟きが聞こえた。

 「ボク、勇者やめる・・・・」

 イヤー!そんな爆裂魔法No Thank Youですよ!!

 「起きてからずっとこの調子なのだ。」

 溜息を吐きながらレティスさんが説明する。

 おや?ずっとですか。という事はこのセリフも何回か吐いている訳ですね。とんだ『かまってちゃん』ですね。面倒くさいこの上ない案件ですよ。

 「ねぇ、何とかできないケーゴ?」

 「パーティーリーダーがこの調子なんだし、副リーダーのケーゴが何とかするのが責務というものでしょ。」

 カーリ、オレにも出来る事と出来ない事はあるんだよ。

 シアさん、オレは何時の間に副リーダーなる職に就いたのですか?それに出来る事と出来ない事以前に、していい事としちゃいけない事って分かりますか?とりあえず魔力を解いて下さい。っっだからその炎と氷を纏った手を合わせようとするなー!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る