チャプター:1~セーブとロードはゲームだけの話しではないのです~

 「会敵!!スライム2、ゴブリン3!」

 「任せてくれ!」

 ザシュッ!

 オレの敵情にウェルさんが馬車より飛び出し突っ込む。そして一薙ぎで魔物達を屠った。

 この人“一応”勇者だから強さは本物なんだよなぁ・・・残念な所もあるけど。いや残念な所が殆どか。

 

 現在ギルドで受注した依頼、『郵便配達』の遂行中で王都へ向けて旅をしている。

 普通郵便等は届け先に寄る予定の有る商人や商隊に礼金を渡し預ける場合が一般的だが、緊急を要する時などにはギルドにて依頼として出される。

 討伐系の依頼に比較し報酬は少なく、精々路銀に色が付いたくらいで旨味は少ない。だがメリットとして、人の往来が多い街道を進むため魔物に遭遇しにくく比較的安全な旅路である為達成しやすい。


 「もう二日も経つのに魔物にまだ3回しか遭遇してないな。張り合いが無い旅路だ。」

 馬車に乗り込むなりそう愚痴るウェルさんを無視し馬車を走らせる。

 依頼を受けた街から王都まで徒歩で5日、距離で言うと約150km位の道のりを馬車で進んでいる。徒歩で5日だから馬車なら2日程で着くでしょ!?バカ言っちゃいけないよ。人は24時間中、休憩・睡眠を除くと8時間は歩き続けられる。しかし馬車は違う。馬は大丈夫だろうが、乗る人間が・・・だから一日精々50km進めばいいところ。しかも馬は40~50分走ったら休憩を入れないといけない。だから思ったより遅いのが現実だ。


 『あるじー、そろそろお花摘みにいきたいじゃ~ん。』

 あ、そう。

 相棒のデロリアス(牡馬)が念話で話しかけて来た。走るのに飽きてきたようだ。

 馬車馬をやっている馬は『デロリアス』でオレが名付け親だ。唯一出産に立ち会った馬で、産まれてからずっと一緒に過ごしてかれこれ5年経つ。

 オレと此奴は切っても切れない関係だ。いや、切れなくはないがそれではオレのアイデンティティが損なわれる。此奴あってのオレみたいなもんである。


 「あそこで少し休憩にしましょう。」

 御者台から後ろを振り返り幌付き荷台に座る4人に告げる。


 馬車を停め辺りを見渡す。一面草原で小さな小川が流れているだけで何も無い。人も魔物も。

 「長閑だな~・・・」

 「ケーゴって不思議だよね。」

 オレの独り言にカーリが不思議そうな顔で話しかけてくる。

 「え?どこが??」

 「こんな何もないところを好んだり、ほら私たちが住んでたモルジボの街近くの丘陵地帯を何時間も眺めてたりしてたじゃない。」

 「だって今でこそ珍しくもないけど、こんなにも自然がそのままであるなんていい風景じゃないか。」

 「・・・その辺の何時もの風景よ。」

 カーリにとって、いや、この世界の人にとってみれば当たり前の事だろう。

 でも、オレにとっては見慣れない景色なんだよ。


 オレは他の人とは少し違う生い立ちをしている。

 オレには前世の記憶が有るのだ。

 そう。所謂、転生者と言うやつだ。

 前世のオレは日本人でサラリーマンをしていた。そして死んだ。

 それまで不通に成長し、普通に進学し、普通に恋愛し、普通に就職し、普通に働いていた。が、普通に結婚までは行き着けなかった。

 死因は・・・はっきりとは知らない。

 ただ、気付いたら赤ん坊になっていた。

 前世最後の記憶は、忘年会の帰り道、歩き疲れ公園のベンチで少し休もうと座り、そこでついつい横になってしまい・・・凍死ですね、これ。オレは2019年没。東京オリンピック、見たかったな・・・・

 まぁ、そんなこんなが有ってこの世界に生まれたわけだ。

 そう言えば、転生物の通過儀礼とも言える神様との邂逅、無かったな・・・(´・ω・`)


 『あるじ~、王都の件どうするじゃ~ん?』

 少し先で草を食んでいるデロリアスから念話で話し掛けられる。

 『そこは考えが有る。大丈夫な・・“はず”。』

 そう答えながら、この馬の喋り口調に後悔していた。



 5年前、オレがまだ10歳の時を思い出す。


 「頑張れ!シル!」

 オレの実家は御者を家業にしている。

 当然馬を何頭か持っており、その日その一頭が産気づいた。

 難産だった。

 産まれる予定の子は逆子で母体は明らかに衰弱していた。

 このままでは2頭共助からない。

 オレと父さんは必至で仔馬を引き出そうとするが、引っ掛かって出てこない。

 「仕方ない。・・・ケーゴ、外に出ていなさい。」

 この時の父さんの判断は間違っていない。でもオレは納得出来なかった。

 「ダメだよ!イヤだよそんなの!!」

 必死で叫んだ。

 そしてオレは神に祈った。

 『オレの全てを捧げてもいい。産まれて来る命を助けて下さい!!』

 その瞬間、オレの中にえも言えない喪失感が襲った。

 呆けていると足元には被膜を纏った仔馬が居た。

 そして気付いた。オレの何かを犠牲にしてこの仔馬が助かった事を。

 それからは何かオレの一部の様に感じる此奴と常に一緒にいた。

 何処に行くにも連れて行き、遊びも此奴とばかり。当然子供同士で遊ぶこともあったが、そこにも此奴は居た。

 そんな感じだからか、オレはよく此奴に話しかけていた。そして此奴もそれを理解しているような素振りを見せていた。

 そんなある日、いつも通り話し掛けていると返事をされた。

 驚いたと同時に嬉しかった。

 たどたどしい言葉で話し掛けて来る。片言だが、ハッキリと。

 そしてその言葉はオレ以外に聞こえていなかった。

 オレが父さんや母さんに説明しても聞こえないと答え、子供の想像世界の話しと思ったようだ。

 そこでこれが念話だと知った。

 

 『アルジ、ワタシハ アナタノ ノウリョクノ イチブヲウケトリマシタ。ヨクワカラナイガ ポイントナルモノガ75アリマス。ドウシマスカ?』

 それを聞いたオレは茫然自失した。

 この世界はいかにもなファンタジー世界で、剣と魔法どころかLVもステータスも存在する。そしてLVが上がるとステータスポイントが得られる。得られるポイントは個人差があるようだが、オレは産まれた瞬間から100ポイント付与されていた。この世界の一般的な考えだとLV50相当のポイントだと後々分かった。しかしポイントは基本ステータスであれば何にでも割り振りできた。だからオレは後々何か面白いステータスが発現する可能性に掛けポイントを殆ど使わず残しておいた。

 因みに使ったポイントは“力”‟体力““素早さ”に少しずつと“運”にその殆どをステ振りした。

 我に返り試しに聞いてみた。

 「それ、返してもらえないかな?」

 『・・・ドウヤラ ムリミタイデス。』

 だと思ったよ。

 そこでオレは久し振りに自分のステータスを確認してみて更に驚愕する。


 この国、アリアン国では子供が5歳になると神殿に赴き、そこで祝福を受ける儀礼がある。こっちの世界の七五参みたいなものだろう。

 そこでオレは不思議な体験をした。

 司祭が祭壇に向かい神に祈りを捧げる。其れに倣って後ろに控える子供達も同じくお祈りする。その時オレの頭の中に声が響いた。

 『っっと、忘れとったわぃ。これやる。』

 そう言われオレの中に何かが生まれた。

 家路に付きながら何気なくステータスを確認すると『セーブ/ロード』というスキルを得ていた。

 そのステータス説明にはこう書かれていた。

“世界的RPGの第三作目から登場した冒険○書なるものと同一。但し書は1個だけ。セーブは任意”

 「これ、チートだろ・・・」

 その時理解した。あの声は神様の声だと。聞き捨てならない事を言っていたが。オレがこの国に生まれていなかったら、神殿に足を運ぶ事が無かったらあの神ずっと忘れたままだったのでは・・・

 本当は前世で死んだ直後に邂逅しなければならなかったイベント忘れていたんじゃないのでは・・・・

 なんにせよこのスキル、人に知られると色々問題起こりそうだから今も隠し通している。


 そして、そのスキルの『ロード』という部分がオレのステータスから消えていた。

 「・・・デロリアス、ステータスのスキルって所に・・・何か記載は、ないか?」

 『スキル・・・『ロード』ト アル。』

 Oh・・・Noーーーーーーーーーーーぉ!!!!

 オレは能力(ちから)の半分と伸びしろを失った。

 スキルを得てからは保険で毎晩寝る前にセーブをしていた。今日まで何もなかった為ロードを使う事が無かったが為今まで気付くことが出来なかった。


 それからが大変だった。

 デロリアスはただの馬であり魔物では無い。つまり魔力が無いのだ。

 人間は多かれ少なかれ魔力は存在する。

 つまり、スキルを使用出来ないのだった。

 とりあえずポイントを魔力にステ振りするように指示したが、そもそも魔力の項目すら無かった。

 そこで色々試そうとポイントを各ステータスに振っていった。

 しかし結局魔力を身に付ける事は出来なかった。

 代わりに知力も上がり、何故か今の喋り方になった。中途半端に上げたせいかな・・・つまり人間でいうチャラ男位の知性は得たという事か。まだバカの範疇だな。


 スキル発動の条件を知ったのはこのパーティーに入る直前だった。

 切欠はカーリがウェルさんにスカウトされた時である。

 この国を、世界を守る為の旅。魔王討伐の任をいずれ受ける事となる勇者が、修行の旅でオレが住む、ダラムード領に来た。

 そこで回復役を探していたウェルさんがカーリの存在を知りモルジボの街へと立ち寄り勧誘を掛けた。

 この勇者、かなり面倒くさい。勇者パーティーは見目麗しくないといけないという信条を掲げていて、その所為でいままで回復役がいなかったそうだ。

 そこで誰しもの目を引く美少女カーリに白羽の矢が立ったのだ。

 カーリが勇者パーティーに付いて行ったのを知ったのは、彼らが街を発った後だった。

 オレはデロリアスを駆りカーリを追った。

 街を出てからはポイントで底上げした脚力を生かした走りをし、トップスピードに乗った瞬間、いきなりオレ達の回りを閃光が覆い、走った跡が炎を上げていた。

 まさにかの有名な、時を掛けるハリウッド映画さながらの状況だ。

 気が付くとオレは自宅のベッドの上だった。窓の外は真っ暗で街の明かりがポツポツとあるだけだった。

 「ロード・・・したのか?」

 オレは家を飛び出しカーレの家へ急いだ。

 「カーリ!カーリ!」

 家の前でカーリの部屋を見上げ叫ぶと窓が開く。そこから出て来た顔は驚いた表情をしていた。

 「ケーゴ、どうしたの?」

 オレはホッとした。ロード出来た事よりカーリがまだ居た事に。

 「あ、いや~・・・明日経つのか?」

 「え?たつ??え?なに言ってるの??」

 「え?」

 「え?」

 最後にセーブしたのは勇者パーティーがこの街に着く以前だった事をその時思い出した。

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