第2話

アキを引き取った次の日の朝

「おはよう」

日曜日というのにいつもと同じ7時起きのブラック社員の日曜日の朝、ただ今日はいつもと違いフライパンの上で油がはねる音で起きた。

「おはようございます、白石さん家にあったものだけでですが朝ごはん出来てますけど食べますか?」

「昨日、私は高校生じゃなくて旦那引き取ったんだっけ?」

「寝ぼけてますね。顔を洗ってきてはどうですか?」

言われるがまま、洗面所で顔を洗い食卓についた。

「「いただきます」」

ご飯に味噌汁、目玉焼きと付け合せのミニサラダ、さっそく頂くことにした。

「……美味いな」

決してプロ並みに美味いとは言えないが家庭で作る料理にしては美味しすぎるくらいだった。

「よかったんですか?僕を引き取ったりして」

「昨日お風呂入ってる時には迷ってたけどこれ食べてよかったと思ったわ」

彼が聞きたかったのはこういう冗談ではないのだろう。でも今の私たちにはこれが一番だと思った。

「そんな話してないで、今日はどうする?なんか用事ある?」

彼も高校生だ。顔の造形だって悪くないしデートでもあるのかもしれない。

「特には無いですね」

「はぁ……あなたねぇ高校生なんてあっという間よ?遊べる時に遊んどきなさい」

「……事実談ですか?」

冗談ながらに彼はそんなことを言ってきた。

「明日からホテルにする?」

「申し訳ございませんでした」

触れてはいけないものに触れた彼がすぐに謝罪してきたのでとりあえずお咎めなしとした。

「それなら、私に付き合いなさい?オトコノコ?」

「……言い方に悪意がありますね」

それからすぐに支度し出かけることになった。

「……髪の毛もっとしっかりした方がいいですよ、ちょっと座ってください」

彼はそう言うとクシで座った私の髪を梳い始めた。

「どうしてそんなに上手いの……」

「周りが女の人ばかりでしたから、姉に覚えさせられました」

「お姉さんいるんだ」

「はい、今は東京で1人暮らししてるらしいですけど、少し雑かもですけど」

彼は雑と言ったが私よりも上手く髪を梳った。

(これからはお風呂出たらしてもらおう)

そんなことを考えながらマンションを出た。

「それで、今日はどこへ行くんですか?」

「そうね……久しぶりにショッピングモールにでも行こうかしら、いい荷物持ちをいる事だし」

「ええ……」

「ごちゃごちゃ言わない!行くわよ」

荷物持ちがいるというだけの理由では無いのだろう、という話は心の中に閉まっておこう。

それから私たちは楽しんだ。

あまり興味の無かった自分の服をアキと真剣に考えたり、逆に私も彼の服を自分なりに一生懸命考えた。

昼食を食べて映画も見た。

アキがボロ泣きだったのは凄く意外だった。

就職してからは日曜日は実質たった1日の休みと同時に明日からの仕事と考えてしまうあまり心地のいい日では無かった。

「今日は楽しかったですね!」

「そうだね」

でも今日は少し違った。

「……アキ、ありがとう」

「何がですか?」

「荷物持ちしてくれて」

「そういう事ですか」

この時間のために明日からの会社も乗り越えられると感じてしまったのは勢いではないなにかだと、私は思っている。

「白石さん、今日の夕食と明日からの食料を買いにスーパー寄ってくれます?」

初日というのに私以上に私の家のことをしてくれる。

「帰ったら通帳渡すね」

「さっきからどうしたんですか!?」

「何でも?」

「今日は何食べたいですか?」

「……魚?」

昨日は肉食べたし、サラダという気分でもない。

「魚ですか、焼きですか?生ですか?」

「焼きで」

結局その後はほとんど彼に任せてしまった。

「何から何までありがとう」

「いえ、住まわせてもらってる身ですし、こういうこと結構好きなので!」

(旦那に欲しい)

年の差を今日1日でとても感じた。

家に帰るとアキはすぐに夕食の支度にとりかかった。

私は手持ち無沙汰になりテレビをぼんやりと眺めていた。

「そういえばアキはなにか好きなものとかあるの?」

そういえば聞いてないと思い出し聞いてみた。

「え?好きなものですか、特には無いですかね」

「待て待て高校生、本当に?何かないの?」

そんなことは無いはずだ。私だって今はこんなんだが高校生の時は作家になるため頑張っていた。

「……読書とかですかね?」

「それならうちに沢山あるよ」

元々小説が好きだった私は小学生の頃からの小説を捨てられずにずっと手元に置いていた。

「また読ませてもらってもいいですか?」

「もちろん、読んであげた方が本も嬉しいだろう」

「楽しみです、夕飯出来ましたよ」

スーパーで調味料などを買い足ししたので夕飯の味は朝食よりも少しだけ豪華な気がした。

「逆に白石さんは何か好きなものとかあるんですか?」

「私?そうね……楽することとか?」

「ははっ、そんな気がします」

言い返したかったが言い返せない自分がかなり恥ずかしい。

「いいわよ!明日からもこき使って楽するんだから!」

「なんなりと」

今日も楽しく1日が過ぎた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る