第6話 馬蹄は未来へと響く

 帝都より帰還し半月が経とうしていた。そして、テイラー家の屋敷の広場には無数の馬車と馬。団員たちが入り混じっている。


「せいれーーつ!!」


 アイミーが叫んだ。団員たちは10×8の長方形に見事に整列をする。


「今より君たちには都市建設のための資材運搬と建築の仕事にかかってもらう! 20日後にハンバーラーより建築のプロが到着する予定であるから、それまでに最低限の資材の運搬! その後は職人の技を全力で盗め!! そして、多大なる利益を得てこい!!」


 アイミーは少しでも元を取ろうと必死である。その様子を見て皆苦笑いだ。


「主戦力はドワーフ50名。お前ら物作り大好きだろ? 全力で楽しんでこい!

 エルフ10名。自然の知識ならお前らが上だ! 木材の指導を頼む! ヒト20名。指揮と警護を頼む! わかったら直ちに取りかかれ! 」


 アイミーが言い終えると長方形は分散され無数もの車輪と蹄の音が遠ざかっていく。


「建設の総指揮はジェイド。お前に任せる。」


「承知した」


 ドスの効いた低い声。

 ジェイドはジルナルドと同齢の老兵である。体格も似ていて髪の色も同じく白髪だが、ジェイドは獣のような鋭い目つきをしており、右目は切創で潰れている。左頬や鼻などにも数多く傷が刻まれ、見るからに武闘派と言った感じだ。アイミーは彼をジルナルドと同等に信用している。アイミーが人を信じることがどれほど稀有かは言うまでもないだろう。


 ジェイドを見送ると後ろから声がかかる。


「アミス。ミルタさんが帰ってきたぞ」


 アイミーが振り返るとそこには年若い青年の兵士が立っていた。


「やっと帰ってきたか…… キーン。お前も付いてきてくれ」


 キーンは適当に返事をするとアイミーの後ろを歩く。


 キーンもこの傭兵団の一員である。赤髪は短く清潔感ある髪型に整えられ、目鼻はくっきりとしていて端整な顔立ち。身長も170cm後半はあるだろう。兵士だけあって体格も良い。一見好青年。だが、雰囲気がどこか軽い。顔がヘラヘラしている。

 彼はアイミーやシヴァと同じく年齢は16である。


「議会の方はどうだった? 」


 アイミーはミルタの書斎に入るや否やすぐにミルタに問うた。四方の壁には本棚が、奥には机、手前には砂の敷き詰められた大きな木箱が鎮座している書斎にはミルタの他にジルナルドもいる。


「ええ〜やっと帰ってきたんだよ〜?休ませてよ〜」


 ミルタは力なく机に突っ伏していた。

 宴の後、しばらく帝国議会がありミルタはそれに参加していたのだ。アイミーはジルナルドと他数名をミルタの護衛として残し先に帰ってきていたのである。


「報告したら存分に休め」


 アイミーが冷たくあしらうとミルタは溜息をつき報告を始めた。


「——て感じ。あと東方の戦争はキリのいいところで終わらせて、しばらくはこちらから仕掛けないって。流石に消耗しすぎたらしいよ。」


「よし! 絶好の機会だ。キーン。シヴァとチュリーと、あと適当なヒトとエルフを10名ずつ集めてくれ」


 キーンは軽く返事をして、ダラダラと部屋を出る。


「どこ行くの?」


 ミルタが尋ねるとアイミーはニヤリと笑う。


「商品を仕入れに行く」


 そう言って部屋を出て行ってしまった。

 書斎にはミルタとジルナルドが残されている。


「なぁ、ジルナルド。シヴァの様子はどうだい?」


 ジルナルドは真面目に働いているといったような事を言い。最後に優秀な兵士だと付け加えた。


「ふーん。本当に彼はつまらないよねー」


「と言いますと?」


 ミルタは机に突っ伏したまま語り出した。


「ヒトを憎みヒトを絶滅させる……。くらいの復讐心があるかと思ったらさー、当事者50人殺して虚しくなって、自分の人生何だったんだろうって、悲観して死にたがってた。復讐を果たした俺に生きる意味はないって感じ? で、ヒトであるアイミーが道を示すと、その道にすがり始めて。全ての人間が悪じゃない。みたいな悟った顔して従順に働いてる。つまらない生き方」


ジルナルドも穏やかに話す。


「彼はヒトの思春期となる大事な時期を孤独感と復讐心で塗りつぶしてしまいました。復讐心は次第に消えていくのに対し、孤独感は色濃くなっていく……。そんな中、差し伸べられた他者との繋がりにすがるのは必然ではないですか?」


 ジルナルドはそう言うとミルタの前にお茶を出す。


「必然だよ。だが、時折彼の瞳に憎悪の色が現れる。彼はまだ復讐するべき人間がいる事を察してるんだよ。本人は気づいていないふりをしているけどね」


 ミルタはお茶を一口啜る。


「繋がりと復讐どちらを追うのか……ですか。ここにいればどちらも叶うような気もしますが……。」


 ジルナルドの言葉にミルタは笑って言い返した。


「それは無理だよー。彼が今憎んでいるのは僕やアイミーみたいな支配層と、弱者を貶める略奪者だからねー」



 2日後、アイミーを乗せた馬車はブレッディー地方のとある広大な草原を20人ほどの部隊と共に駆けていた。


「キーン。チュリーが目標は3時の方向にいるって」


 アイミーを乗せた馬車を操縦するのはキーン。その馬車の上にシヴァはあぐらをかいて座っている。そのはるか上空にはチュリーの姿。


「了解。アミス。もうすぐつくぞ」


 馬車の中からアイミーが返事をする。

 その返事を聞いた後、キーンは左右に展開した騎馬にハンドシグナルを送る。すると、全体が馬頭を3時の方向に向けた。


「なぁキーン。なんで団長のことアミスって呼んでんだ?」


 シヴァは尋ねるとキーンはヘラヘラと答える。


「お伽話に出てくる悪い魔女の名前。背中に羽が生えてるんだぜ。んで二本の腕から凄まじい魔法を放つ」


「団長に似てるのか?」


「16歳ってのは嘘で、見た目を偽った魔女なんじゃないかってことよ」


 馬車からアイミーが乗り出し話を遮った。


「ここからは速度を落とせ。敵じゃないと理解してもらう必要がある。」


 アイミーが指差す数百メートル先にうっすらと集落的なものが見える。

 それをシヴァが視認したと同時に、シヴァの耳がピクリと動いた。


「団長!前方より騎馬…… 数は」


 とシヴァが言い終わる前に一団はその答えを知ることとなった。

 蹄が地面を叩く音がこちらの何倍も大きく、そして捲き上る砂埃の量もまた何倍も多い。

 十数秒後には50体ものの騎馬隊に一団は囲まれてしまった。


「やぁ、ケンタウロスの諸君。メッツァルナが来たと族長に伝えてくれないか?」


 彼らはケンタウロス。上半身がヒト。下半身が馬の亜人である。毛並みは黒・茶・白と通常の馬と同じく、手には木と石で出来た槍や弓矢を手にしている。


「ヒト……。殺す……。殺してやる!!」


 アイミーの問いかけを無視して何体かのケンタウロスが飛びかかって来た。

 この行動に両者ともに緊張が走る。

 が、その緊張を吹き払うかの如き大声がケンタウロスの群れの奥から響いた。


「止めろッ!!!」


 貫禄ある男らしい声。それを聞いた瞬間、飛びかかったケンタウロス達は動きを止めた。


「戦士長!! なぜ止めるのですか⁉︎」


 その中の一体が悲痛に叫ぶ。

 奥から現れたのは一体の黒馬のケンタウロス。骨で作られているのであろう白い槍を持ち首飾りを付けている。顔の見た目は30代であろうか。無精髭のせいか少し老けて見える。


「よく見ろ!! エルフと鳥人。そして、ヒトの部隊。族長がお話していた客人だ!!」

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