第2話 血の味は鉄と共に

「なぁ聞いたか? 今、頭領達が女奴隷の"検品"中だってよ。くぅ〜羨ましいな〜俺も混ざりてぇ!」


「何言ってんだ。ワーウルフを売った資金から奴隷商で大儲け。景気が良いんだ娼婦でも買ってろ」


 塀で囲われた洋館。その門には2人の兵士が立っていた。月のない夜。洋館内では酒盛りが行われているのだろう賑やかな声が聞こえる。


「敗残兵から今や大商人か。最初は100人以上仲間がいたのに亜人狩りで半分に減っちまったな。」


「ああ、ワーウルフでの戦死が一番多かったな…… 武器持った20体相手に死者30人。だが今は辺境の村から女を拐えば金になる! 良い商売だ! 俺たちもしかしたら領主まで行くんじゃねぇか? なぁ?」


 兵士が振り向くともう1人の兵士の腹には剣が突き刺さっており、門に寄りかかって座るように死んでいた。


「え?」


 先程まで他愛もない話をしていたはずの仲間が死んでいるのだ。男は混乱する。何が起きたのか理解が追いつかない。

 兵士の口に背後からそっと手が伸びる。その腕は黒灰色の毛に覆われ、ヒトなどでは決してなかった。その事実が兵士の恐怖心を更に助長させる。

 口を塞ぎ手早く兵士の鞘から剣が抜かれると躊躇なく剣は深く腹に突き刺された。兵士は力なく糸の切れたマリオネットの様に地面へと崩れ落ちた。


「爪には爪を、牙には牙を……。鎮魂には…… 魂を……。」


 シヴァは門を潜ると耳と鼻を使い索敵を行いながら息を潜め素早く歩く。

 コの字型の洋館。三つの出入り口。警備は各入り口に2人。


「ザルだな……」


 片足のつま先に力を込め地面を蹴る。それを連続で二回。闇の中を高速で移動するシヴァを兵士は誰一人として気づかない。洋館の壁まで容易にたどり着くことができた。空いている窓を見つけ、中を確認するとそこは大部屋。大量の酒樽と共に男達が雑魚寝をしている。

 シヴァは1人につき剣を一つ。男達の腹に突き刺していく。ただ殺すのではなく、儀式でもしているかのように、頑なに持ち主の剣で腹を貫いているのだ。


「せっかくのワインも台無しだな……」


 シヴァは腹から流れる液体を見て言った。

 部屋全員を刺し終える頃には赤い湖ができていた。一歩踏み出すたびに、ピチャピチャと音が静かに暗闇へと響く。



 館内は静まり返っていた。いびき一つもう聞こえはしない。館内だけではない。外も闇夜に相応しく全てが眠るように静かである。


「ここで最後か……」


 目前には木製の大きな扉。中からは男数人の声が聞こえる。笑い声だ。

 ——ギギギギギィッ

 扉を開けると鈍く木が音を立てる。もう闇に紛れる必要はない。薄暗く、まるで物置のように木箱や樽・武器や鎧とあらゆる物が乱雑に置かれた部屋からは、吐き気を催すほどに強く欲の香りがシヴァの鼻孔を刺激する。

 その部屋には男が5人。女は4人。いや、檻の中にもう5人。その9人の女性はボロボロの衣服を纏い手足は鎖に繋がれていた。身を震わせ怯える者もいれば、目に生気が無く死んだように呆けている者もいる。


「ヒトは…… ヒトすらも狩るのか……」


 床には真っ赤なシヴァの足跡が付く。その付近には空の酒瓶が転がっていた。


「なんだ! テメェ! どっか……」


 男はそれ以上言うのをやめた。いや違う、言えなかったのだ。喉にはシヴァの爪の跡。グラスから溢れるワインのように血が溢れ出て来ていた。


「ワーウルフだ!! 囲め!!」


「クソッ! 煙だ! コイツらは煙に弱……」


 先程殺した奴の剣を奪い男の腹に突き刺す。残り3人。女性の悲鳴が耳にこびりつく。呼び起こされるのはあの日の光景。

 男達は剣を構えジリジリと距離を詰めた。男達が行動を起こす前に正面の1人にシヴァは飛びかかる。振りかざされた剣を避け顎を殴ると男は膝から崩れ落ちた。床に落ちた剣を拾い一番近くの敵に斬りつける。

 男は焦っているのか、剣を久方ぶりに握るのかシヴァにはかすりもしない。剣を突き刺す。断末魔が響く。だが、それもすぐに静かになった。


「なぁ…… なぜヒトはヒトすらも狩るんだ……?。」


 シヴァは残った最後の1人に問う。

 男は腰を抜かしていた。目には涙を流し何かを訴えようとしているが声は出ていない。シヴァは床に落ちた剣を拾うと躊躇なく突き刺す。男の断末魔が響いた。


「喋れるじゃん……。」


 ——シュビンッ!

 木がしなる音。

 シヴァの背中に矢が突き刺さる。

 トドメを刺し忘れた男が矢を放ったのだ。


「ハハッ…… くたばれ獣野ろ……」


 背中の矢を抜き男の喉に突き刺す。仕上げと言わんばかりに剣を突き刺した。


「4年間も待たせてごめんよ…… これでやっと終わったよ」


 空に向かい遠吠えを一つ。乾いた音色。空には響かない。

 ふと足元を見下ろすと床には鍵の束が落ちていた。


「辛かっただろ? 家族の元へ帰りな……」


 静かに言うと1人の少女の錠を外す。

 そしてシヴァは床に鍵の束を置き、出口へ向かう。


「あれ……?」


 体が思ったように動かない。足がふらつく。意識が朦朧と……。

 そして目の前が真っ暗になった。


 *


 朝日照らす門の前に多数の人影が伸びていた。殺されている兵士を見るや否や門を潜り建物に入る。


「ひでぇ有様だ……」


「どうやらここの奴らは全員死んでいるようです。」


 大部屋には無数もの死体。床には血が広がり足の踏み場などはない。


「なんだこりゃ…… どっかのカルト教団の仕業か?」


 殺された死体は全て仰向け。腹には十字架の如く剣が突き刺さっている。まるで自身の剣で自身を突き刺したかのような奇妙な死体の数々。


「おい! こっちに生存者を見つけたぞ!! 奴隷とワーウルフだ!!」


 夜は今明けた。朝日が昇る。

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