幕章

第1話 おっさんたちは逃亡する。

 大宴会。


 仲の国はこの世界、いや、この九州地方のほとんどの民が集まったんではないかと思えるほどの人に溢れ、誰もが飲み食い騒いでいた。


 民は破壊神云々のことは知らない。


 だが「とにかく上の人々の中でなにか嬉しいことがあったらしい」ということはわかった。


 それに仲の国では酒も食べ物も大盤振る舞い。移動も階級関係なく各地からの転移装置で軽々とできるとあって、人が集まらないはずがなかった。


 街には色とりどりの紙吹雪が舞い、音楽が絶えない。


 立場関係なく肩を組み合う人々の笑い声と歌声が、この世界のすべてのように見える。


 その大騒ぎの中、そっと仲の国から出ていく人影があった。三人のおっさん勇者……ジューン、セイヤー、コウガだ。


 彼らが人知れず消えようとしているのには理由があった。


「誰が正妻か」という女たちによる不毛な争いが起こりそうだったので、その原因となる自分たちが消えてしまおう、という話になったのだ。


 それに、彼らは所帯持ちになる前にやっておきたいことがまだまだある………冒険だ。


 自分たちのいた世界の遥か未来だと判明したこの異世界、いや、未来世界を探求し、過去になにがあったのか紐解いてみたい。見知らぬ人や動物を見てみたい。新たな文化に触れてみたい。


 その願望に仲間全員を連れて行くのは大変だし、誰かを選んだら角が立つ。ならばこっそり出ていこうという作戦だ。


 セイヤーの隠蔽魔法に守られて、三人はサササッと歩く。


 転移魔法陣を使うと形跡がバレて足取りを掴まれてしまうので、歩くしかない。


 セイヤーの魔法で飛べば早いのだが、そうできない理由がある。






「一時的であっても人々に神の加護を与えた代償はあなた方に負担していただきますね」


 デッドエンド氏は容赦ないことをおっさんたちに告げた。


 破壊神や悪魔たちと戦うにあたって、デッドエンド氏は神の加護を人々に与えた。


 ───私は神です。この場にいる人々に神の代行者としての力を与えます。もちろん得られる力には代償が必要ですが、それはすべて勇者たちが受けますから安心して戦ってきてください。


 その代償とは……この世のことわりを壊さないようにする「能力の大幅減少」だった。闇の勇者の呪いによってかなり減少されていた能力ではあるが、その呪いは解けかかっていた。なので神が直々に「呪い直した」と言ってもいい。


 ジューンは努力しても限界点が設けられ、今までに培ったアホのような力も半減以下にまで落とされた。


 セイヤーも魔法を無尽蔵に使えなくなり、勝手に魔法を作ることもできなくなった。だから飛行できなくておっさんたちは歩いているのだ。


 コウガの強運はもっと悲惨で、悪いことをやられたらちゃんと倍にしてやり返す程度になってしまい、因果律を書き換えるまでではなくなった。


「皆さんの存在はこの世の理を壊すほどの影響力はなくなったので……そうですねぇ……今回の褒美を差し上げましょう。これは今までの勇者にも与えなかった特例ですからね?」


 デッドエンド氏はおっさんたちにいくつかの特典を与えた。


 ・限りなく不老に近い、老化現象の遅延。とんでもなく長寿になったとはいえ寿命はある。


 ・勇者特性の再生回復能力、抵抗能力は現状維持。


 ・勇者特性の魅了能力の半減(これはおっさんたちからの願い)。


「つまり、冒険を長く楽しめるプランです」


 いいプランだった。


「それと、各大陸……といいますか、それぞれの地方であなた方が活躍できるような大事件や強大な相手があることを保証しますよ」


 まずは九州を出て、本州に行ってみよう。


 次はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ……冒険できる広大な土地はまだまだある。


「それに、これはちょっと私の権限で因果律を書き換えましたが……世界各地にそれはもう旨いお酒、美味しい食べ物、快適な寝床……いろいろと用意しています。それを探し求める旅というのも乙なものでしょうとも」


 おっさんたちは、残してきた仲間たちに対して後ろめたさは感じながらも、足取り軽く旅に出た。

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