第8話 おっさんたちとその仲間たち。

 転移魔法の門から次々に現れるおっさんたちの仲間たち。


 先頭を切って現れたのは、ジューンの相方であり天才魔術師のクシャナと彼女が率いるリンド王朝王立魔法局の魔術師達だった。


「死ぬ気で行きなさい! 魔力が枯渇する前に第二陣と交代するのよ!!」


 魔術師達は一斉に魔法陣を浮かべ、飛来する悪魔たちを攻撃し始める。


「悪魔の魔法抵抗力はとんでもないって文献もあるから! と思ってかかりなさい! つまりんだから!」


 クシャナが吠えるように言うと、魔術師達は「おう!」とこれまた魔術師らしからぬ体育会系な声を張る。


 次に「仲の国」の仲間たちが現れた。


 ダールマ♪ ダルマ♪ ダールマ(はいはい!)の音楽と共に現れたのは、扇情的で殆どなにも着ていないに等しい「伝統的な戦闘衣装」を着込んだダールマ教のダークエルフたちだった。


 ダークエルフの長である元魔王軍の将軍にして現在教祖様のヒルデ。その配下にして現在アイドル的立場「ダールマ7セブン」のダークエルフ七戦士。そして腕に自信がある信者によって構成されるダールマ教戦闘部隊。


「邪神を祓いましょ~♡」


 ヒルデは相変わらず顔だけは春風駘蕩で、首から下は筋骨隆々の黒光りした筋肉ダルマな出で立ちだ。


 そのダールマ教徒に遅れて現れたのは、ジューンの元恋人だったビッチ田口美澪ミレーや、ヤンキー空城クジョー譲介……劣化勇者たる「英雄」たちだ。


「うわぁ、マジか」


 空一面を埋め尽くす巨大な悪魔と、そこからこぼれ降り注いでくる悪魔を見て、クジョーは舌舐めずりする。そのセリフとは裏腹に楽しんでいるようだ。


 そんな彼らの後ろに現れた仲の国防衛軍は、セイヤーが生産した人造金貨生物「クリーピングコイン」の群れだ。その先頭にいるのは白薔薇の君ティルダ、そして黒百合の君アントニーナで、ふたりとも自分の二つ名が示す色味を帯びた乙女騎士武装をしている。


「「行きなさい!」」


 二人が剣を掲げると、クリーピングコインたちは一糸乱れぬタイミングで同時に片足を「はい!」と上げ、わあー!と地面を駆けていく。


 そしてメイド服と執事服の一団は、女魔族エリゴス率いる館の使用人たちだ。元暗部のデル・ジ・ベットやソフト・バーレイ、そして各国から(いつの間にか)集まってきた暗部スパイの者たちが、戦場となったこの地に散っていく。


「各自戦況を知らせて! だけど我が身を第一にっ!」


 エリゴスの指揮であちこちに展開していくメイドや執事たちの役割は、この戦場の状況確認らしい。


 次に現れたのはディレ帝国元宰相……現在「女帝」の座に就いたデー・ランジェ率いるディレ帝国の「虹色騎士団」だった。


 セイヤーがもたらした最新文明の利器に頼ることなく、己を切磋し続けてきた剣の申し子たち。そして集団戦における三大国家最強の虹色騎士団は、入団資格を得られる者が少ないため数は多くない。


 だが、彼らが持つ「破邪の剣(制作はセイヤー)」は魔物に対して一騎当千の強さを誇る。


 ディレ帝国に魔物の被害が少ないのは彼らがいるからだとも言われているほどだ。


「いいですか! ここで勇者たちに借りを返すのです! この世界の住民として、異世界の彼らに恩を返すときです!」


 デー・ランジェは女帝らしく鼓舞し、虹色騎士団は「おおう!」と応じる。


 次に現れたのは、エーヴァ王女率いるエーヴァ商会戦術部隊だった。侍女のエカテリーナが陣頭指揮を取り、エーヴァ商会が独自に開発した戦車もどきのような特殊車両が次々に転送されてくる。


 銃器などの現代兵器を「この世界には似合わない」と否定したセイヤーだったが、その有用性はアップレチ王国が独自開発した銃の存在によって知られてしまっている。


 セイヤーがいない間、それをエーヴァ商会が作らないはずがない。


 だから戦車もどきにはマシンガンのようなものが搭載されていて、砲台やロケットランチャーも積まれている。


「あなたですね! 私の胸をキュンキュンさせる勇者様!」


 一番大きな戦闘車両に乗るエーヴァ王女は、呆然とこちらを見ている勇者の中からセイヤーを見つけ、指差しながら言った。


「一発で分るわぁ。私、愛人ポジションでもいいってわかるわぁ」


 エカテリーナもセイヤーを見ている。


 闇の勇者の呪いによって記憶を失ったままのエーヴァやエカテリーナだが、どんな呪いもその心までは支配できなかったらしい。


 次に、エフェメラの魔女ツーフォーが転移魔法陣から飛び出してきた。


 その長身にしてナイスバディは魔法陣から飛び出してくるなりコウガに飛びついて、その頭を自分の胸の谷間に埋める。


「コウガちゃんコウガちゃんコウガちゃんコウガちゃんコウガちゃんコウガちゃんコウガちゃんコウガちゃんコウガちゃんコウガちゃんコウガちゃん!! 大丈夫!? 疲れてない? おっぱい吸う?」


「緊張感! もっと緊張感を!!」


 コウガがジタバタする中、ツーフォーに続いて猫頭人身族ネコタウロスのミュシャとすごい数の冒険者たちが現れた。


 この世界のすべての冒険者を集めたんじゃないかと思えるほどの軍団は、天を埋め尽くす悪魔の数に青ざめている。


「え、なにここ」

「俺今日死ぬんだな」


 口々に辞世の句を告げていたが、そんな彼らの弱気を吹き飛ばす声があがった。


「ひるむな冒険者! これが済めば各国から報酬は想いのままだ! 褒美を取りに行け!」


 声を荒げたのは上半身裸になった【柔らかなエリール】だ。


 その男勝りな気風の良さに冒険者たちが見惚れる中、エリールの頭を軽く小突く男がいた。


「俺以外に乳を見せるんじゃない!」

「えへへ……」


 急にイチャコラし始めるエリール。


 その頭を小突いたのはランクC冒険者のハンス氏だ。


「代表が腑抜ける前に行くぞ!!」


 ランクAの【さざなみのグウィネス】が叫ぶ。


勇殺者ブレイブキラー】のミウ、時を止める永久監獄を作るランクB冒険者の【微笑みのリサ】もいる。


 冒険者たちは大小様々なグループを作り「おおおお!!!」と応じた。


 アップレチ王国からは、半魔族にして天位の剣聖ガーベルドとその婚約者のシルビア率いる騎士団が現れた。


 善王エドワード(feat.妖魔)と王国騎士団団長シルベスタ伯爵によって騎士団に戻されたガーベルドとシルビアは、レスリー&リンダの双子騎士と共にアップレチ王国の全兵団を率いていた。


 剣聖ガーベルドがボソボソとなにか言うと、婚約者のシルビアが「勇者様のために!」と叫ぶ。剣聖は相変わらず小声だった。


 そして「月夜の子猫」商隊のリリイとエレドアが大量の馬車と共にやってきた。


 非戦闘員である彼らの役目は後方支援だ。


 すぐにテントを準備し、炊き出しと救護室を作る。


 指揮を執るのはリリイたちだが、その下で動いているのはミノーグ商会やエーヴァ商会だ。


 かつて様々な商会が一同に際し、協力し合うことなど一度もなかった。


 だが、今は人類存亡の時。商売を度外視した協力が必要なのだ。


「すげぇな」


 ジューンは次々に現れる仲間たちを見て感動したのか目をうるませていた。


「これが私達がこの世界に来て築き上げてきた人の縁か」


 セイヤーは長い髪を掻き上げる振りをして、目元の涙を拭った。


「みんな死ぬかもしれないのに……」


 コウガは隠すことなくドバドバ涙を落としている。


 おっさんは涙腺が脆い。


 歳を重ねるごとに人の優しさ、悲しさ、嬉しさがダイレクトに涙腺を崩壊させてくるようになる。


 ジューンは映画はもちろん、漫画や小説でも泣くようになった自分を「老いたな」と自虐するが、別にそれでも構わないと思っている。


 セイヤーは人付き合いの悪さ故にそれほど泣く状況にならないのだが、それでもテレビで動物の悲しいシーンが流れると泣く。


 泣かないおっさんは人格破綻者だと言い切るコウガなどは、常に泣いている。


 そんな涙腺崩壊するおっさん勇者三人を尻目に、勇者軍団とも言える人類は、悪魔たちに歯向かった。


 しかし一体でも国を滅ぼす力を持っている悪魔が、無量大数降り注いでくる。


 人に勝ち目などない。


 剣や槍で突こうが悪魔には毛ほどの傷もつけられないし、逆に手の一閃で数十、数百の人々が吹き飛ばされていく。


「やばいやばいやばい! 死人が増えるだけだよ!!」


 コウガが悲鳴を上げる。


「いいえ。この世界の生き物は等しく我が子ですから、神の加護を授けますとも」


 デッドエンド氏から光が溢れ、傷ついた人々を包んでいく。


 ────私は神です。この場にいる人々に神の代行者としての力を与えます。もちろん得られる力には代償が必要ですが、それはすべて勇者たちが受けますから安心して戦ってきてください。


 デッドエンド氏の声が人々の脳裏に響き渡ると同時に、今までに感じたことがない力が漲りだし、倒れた者は立ち上がり、通じなかった攻撃が通じるようになった。


「え、いまなんか不穏なこと言わなかった? 代償は僕たちが受けるとかなんとか……」


 コウガが抗議するが、デッドエンド氏は何も応じない。


「まだまだ援軍が来ますよ、ほら」


 巨大な魔法陣が生まれ移動要塞ファラリスが現れる。


 その要塞の上で手を降っているのは、元スケルトンのクラーラなのだが、血肉のある姿は見慣れないのでおっさんたちは「誰だっけ」と頭をかしげている。


 移動要塞ファラリスは移民用の施設にするため変形機能はなくしたが、その重厚な装甲は確かに要塞として機能するには十分だ。


 その移動要塞ファラリスからリザリアン族がワッと飛び出す。


 もちろんリザリアン族を率いているのはクラーラと種族を超えた愛を育んでいる若き戦士トトだ。


「勇者のみなさんが見てるっす! リザリアンの本気をお見せするっすよ!!」


「うおおおおおおおお!!」


 戦士たちが吠えると同時に別の転移門が開き、巨大なドラゴンが現れる。


『旦那様! ようやくの登場じゃ!!』


 ブラックドラゴンのジルが人の姿ではなく竜の姿で降り立つ。


 他にも赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒、白というカラーリングのドラゴンたちがわんさかやってくる。


 最後に現れたのは透明竜……聖竜リィンだ。


『人の子らよ。世界すべてのドラゴンがあなた方の味方です』


 戦う人間たちは「うおおおお!!」と歓声を上げる。もしかすると神様に加護を貰ったときよりも歓声は大きかったかもしれない。


「ふむ。やはり人は目に見えるものを信じるようで」


 神様たるデッドエンド氏は両手を軽く上げて「やれやれ」というポーズをした。


「遅れた!」


 次の魔法陣からは魔族のイーサビットが現れた。


「遅れたのはあなたがいつまでもトイレから出てこなかったからでしょうが!!」


 イーサビットの尻を蹴り飛ばしながら現れたのは、新魔王にしてジャファリ新皇国皇帝にクリストファーだ。


 その後ろから魔族の軍勢が整列しながら転移してくる。


「魔族も人も等しくこの世界の生き物である! そして! この世界を悪魔どもに奪われるわけにいかん! 我らジャファリ新皇国は人と共に手を携え、この苦難を乗り切ろう!!!」


 イーサビットが仰々しく旗振りすると、魔族達どころか人間たちも「うおおおおおおおおお!!!」と激しく声を上げた。


 悪魔たちですら一瞬動きが止まるほど、空気が震える人々の雄叫びだ。


「これはこれは。熱いことで」


 妖精界から邪妖精アンシーリーコートのアッシュヘッドとヴィルフィンチ、ラプンツェルおばさん一家、そして妖精女王ティターニアが現れる。


 それに続いてダンジョン最下層の不死王デッドエンドオーバーロード首なし騎士デュラハン、そしてなぜか道具屋の娘ゾフィーも現れた。


「妖精も魔物も人も、ご覧の通り。この世界を乱す者たちを葬るために手を結んだ」


 妖精女王が不死王デッドエンドオーバーロードと手を取り、不死王デッドエンドオーバーロードは道具屋の娘ゾフィーの手を取る。


 続けて大量の魔物達が転移されてくるが、人を襲うことはなく一直線に悪魔たちに向かっていく。


 妖精軍団も虹色に輝きながら現れ、魔物や人間たちと共に悪魔に向かっていく。


 そうしているうちに別の転移門から巨人たちが現れた。テミス率いる旧神ティターン十二神だ。もちろんテミスの弟である蜘蛛王コイオスもいる。


「湧いてるわねぇ」


「ふっ……懲りない悪魔どもだ」


 テミス・コイオス姉弟を先頭に、旧神たちは本来の神としての体格になる。


「さあ兄弟たち! 封印の中で退屈していた鬱憤を晴らすわよ!」


 テミスはジューンに与えた【吸収剣ドレインブレイド】によく似た大剣を掲げた。

 

 まさにこちらの世界の総軍団と悪魔とのラグナロクと言っても良い戦いだった。


「さて。準備の種は花開いたことですし………勇者の皆さんに仕事です」


 デッドエンドは悪魔の一匹を片手で消滅させながら言った。


「次元回廊を閉じてきてください。このままでは悪魔たちを倒したところでその魂はまた次元回廊に戻り、またこちらに来て復活するだけですから」


「「「 それ先に言えよ!! 」」」


 おっさんたちは悲鳴に近い声を上げた。

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