第12話 おっさんたちと円卓会議・第二部。
調印の城・天守閣。円卓の間にて。
今から行われるのは、この国の今後を話す重要会議の第二部だ。
第一部では後半グダグダになってしまい、セイヤーは学生の頃に上履きを焼却炉で燃やされたことがあるという、陰湿なイジメ体験をペロッと話しだしたものだから、場の空気もかなり沈んでいた。
そこで会議メンバーの交代も兼ねて小一時間の休憩が挟まれた。
いいタイミングだったので、セイヤーは魔法の伝言術を用い、北地区にあるセイヤーの館で待機中の女魔族エリゴスにコンタクトを取った。
そして、メイド服姿の女魔族エリゴスはセイヤーの転移術でこの場に召喚された。
もちろんこの後の会議にエリゴスは必要ではない。館で執事のデル・ジ・ベットとメイド長のソフト・バーレイに指導されている元路地裏の子どもたちと共に、
だが、それでもセイヤーが呼びつけたのは、おっさんたちが熱望したからだ。
「ごめん、お茶とか用意してくれない? どこになにがあるのかさっぱりわからない」
呼ばれて転移させられたエリゴスがキョトンとしていると、コウガが頭を下げた。
まるで「嫁に全て任せきりで台所に何があるのかわからない駄目なお父さん」みたいなことを言い出したおっさんたちに、エリゴスはにっこり微笑んで「はい、わかりました」とお茶っ葉を探しに行った。
「いい女だよねー」
コウガがニヤニヤしながらジューンを見る。
「さっきのビッチに比べたら、ジューンはあんな子と結婚するべきだと思うわけよ、僕としては」
「さっきのビッチと比較するのはあんまりだろう。だが、私もそう思うぞジューン」
「そんな気はないが……」
魔族特有の肌の色や翼や尻尾など、別に気にしていない。ジューンが気にしているのは自分よりかなり若い娘さんだということだ。
それに、ジューンはこれといって女性をそばに
「それより次はセイヤーの連れとの会議なんだが」
ジューンが静かに言い返すと、セイヤーはうつむき、コウガは他人事を楽しむためにニヤニヤ顔を辞めなかった。
円卓会議・第二部開始。
参加者はおっさん三人。
ダールマ教の教祖にしてダークエルフ族長のヒルデ。
そのヒルデの臣下で、「剣ダールマ」「槍ダールマ」「弓ダールマ」「盾ダールマ」「騎馬ダールマ」「鞭ダールマ」「棍ダールマ」の称号を持つ七戦士……ダールマ
ダールマ教の食客である
ちなみに円卓にお茶を用意している
他にも蜘蛛王コイオスと聖馬リィンもこの玄室内に入るのだが、円卓には座していない。
コイオスは夜遊びしすぎて眠いらしく、蜘蛛の糸を窓辺に張り巡らせてハンモックを作り、すやぁ……と寝ている。
聖馬リィンは『人の子らよ。私のことは気にせず』と断りながら、エリゴスが用意した飼葉をむしゃこらと食べている。竜なのに馬の生活に慣れたようで『むむ、この飼葉は天日干しのいいやつですね! はむはむはむ!』とやっている。その姿に聖竜の威厳は欠片も存在していない。
「さてぇ~、本題を進めましょうかぁ~」
ヒルデの
体を包み隠している教祖の法衣の下にあるのが、岩石のようなゴツゴツした黒光りする傷だらけの筋肉と、筋肉の壁に負けずに成長したたゆんたゆんな爆乳だと思うと、エロさや殺伐さとは縁遠そうなのほほんとした顔とのギャップに思わず唸ってしまったのだ。
ヒルデは例によって、闇の勇者から受けた「呪い」のせいで、おっさんたちのことだけすっかり忘れている。
もちろん呪いの対象外だった妖精たちや七戦士は、ちゃんとおっさんたちを勇者だと認めているのだが、ヒルデだけは周りが何を言っても「けどぉ~、覚えてないんですぅ~」と首を傾げるだけだ。
「覚えてないんですけどぉ~、どうしてかお腹の底が熱いんです~」
下腹部をさすさすと
たとえ記憶を失っても、どこかでなにか引っかかりはあるようだ。
その様子を見てセイヤーは身震いしている。
さらに「ダールマ♪ ダルマ♪ ダールマ♪(排卵日)」と、小声で歌いだした辺りでセイヤーは必死な形相を他のおっさんたちに向けた。
仕方なしにジューンが別の話題にすり替える。
自分の元カノである田口
「はい~。異世界から来た勇者もどきの女性を預かる件はぁ~、わかりました~」
ヒルデに了承されたので、今は別室で待機している英雄のミレーはダールマ教徒となった。これで【ビッチ】という不名誉な二つ名が外れることを信じるしかない。
続いてコウガが別の話題を振る。
ダールマ教を国教にしないか、という相談だ。
国教とは、国家が公認し国民の信奉すべき対象として保護を加える宗教のことだ。
今回の政権討伐を成し遂げた立役者であるダールマ教を無碍にせず、国教に据えるというのは、ある意味褒賞のようなものだ。
テーマソングはどうかと思うが、それ以外はまっとうな宗教団体で、その教えは品行方正だ。
ダルマにまつわる右斜め上の独自解釈が入っているのが気になるところではあるが、色街と化してしまったこの仲の国をまともにするには、これくらい強烈な「毒」を投じてもいいだろう、というおっさんたちの判断だ。
「わかりましたぁ~。ダールマ教を国教にしていただく件は、とてもありがたいですぅ~」
おっさんたちの無言のナイス連携によって、不安な空気は霧散した。
「そういえばぁ~、私の記憶にはないんですけどぉ~、日記にはマスターダルマ、いえ、『マスターダールマ・セイヤー様』ってあちこちに書いてあったんですけどぉ~、もしかしてあなたが私達の神ですかぁ?」
全然不穏な空気は解消されていなかった。
セイヤーは思い切り長い髪を振り乱しながらブンブンと首を横に振ったが、ヒルデの
円卓会議の結論としては、ヒルデは呪いを解かずに今後も教祖として励んでもらう事となった。
もし呪いを解いたらその役職と立場を捨ててセイヤーに着いてきそうだったので、それは今後のためにもよろしくないから、と、聖竜リィンの涙を浴びせることはなかった………それでもヒルデは「自分でもわからないんですけどぉ~、どうしてもセイヤーさんに惹かれるんですぅ~♡」と下腹部をさすさすしていた。
数年後。
世界最大の教徒を持つダールマ教は、キャント寺院派というこれまた大きな宗教団体から「邪教徒」との烙印を押された。
キャント寺院は、邪教を排する聖なる戦いを宣言し、ダールマ教が本部を置き、それを国教としている仲の国に侵攻を開始した。
その実はダールマ教を槍玉に挙げつつも、都市国家たる仲の国の利権を狙った侵略戦争であり、キャント寺院の後ろでいくつもの小国家が支援していた。
世の人々は知らなかった。
ダールマ教が、そして仲の国がこの世界にあるどの国家と比較しても、無敵であることを。
国境線で活躍したのは、仲の国騎士隊。
かつての英雄にして5人の子持ちとなった【ヤンキー】こと
そんなクジョーを避けて仲の国まで侵攻したキャント寺院勢力は、次にダールマ教徒防衛隊と一戦交えた。
いや、交えたとも言い難い。
なぜならキャント寺院側は、教祖ヒルデの補佐として現れたかつての英雄【ビッチ】こと
それでもなんとか仲の国まで攻め入ることが出来た者たちは、ダークエルフの七戦士たるダールマ
しかしそれでもまだ終わらない。
キャント寺院側は暗殺者を仲の国に解き放ち、教祖ヒルデと仲の国の支配者である「白薔薇の君」と「黒百合の君」を暗殺しようとしたのだ。
だが、ヒルデを襲った暗殺者たちは全員素手で体を
戦いには素人である「白薔薇の君」ティルダと「黒百合の君」アントニーナには、妖精三巨頭(
暗殺者たちはキャント寺院側の悪事をペラペラと自白し、その後ろにいる小国の名前もボロボロ吐いた。
すっかり館の執事長とメイド長に収まっていたデル・ジ・ベットとソフト・バーレイは、昔取った杵柄で、小国の中に様々な揺さぶりをかける「暗部」としての働きを見せ、それらの国家は内乱が起こり、崩壊。すべてが仲の国の領土として再編された。
その時代、今で言う三大国家という名称はなくなり、東のリンド王朝、北のディレ帝国、南のアップレチ王国、西のジャファリ連合国、そして中央の仲の国という5大国家となった。
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