第3話 おっさんたち、白薔薇の双子騎士
白薔薇の双子騎士。
それは白薔薇親衛隊の中において隊長ドメイ・ワーカーや副隊長ルーフ・ワーカーとは異なり、その指揮系統にも入っていない二人の美女のことだ。
彼女たちは幼少の頃からティルダ・アップレチ第一王女に仕えるために剣の技を磨き続け、常にその傍らに控えていた。
彼女たちが阿吽の呼吸で繰り出す槍術は、剣聖であっても防ぎきれないだろうと言われている。
なんせ剣術三倍段と言われるように、槍術を相手にするために剣術の使い手は三倍の技量(三倍の段に相当する実力)が必要だ。
おっさんたちのいた世界でも、ローマ帝国の重装歩兵が長槍を使っていて非常に強かったというのは有名だし、槍は剣が届かない遠間から攻撃できる。それだけでもかなりの有用性だ。
それなのに、おっさんたちのいた日本では槍がメジャーではない。日本刀のほうがよっぽどファンも多い。
これには理由があり、槍術はある頃から古格を重んじ、閉鎖的で保守的な厳格さばかりを売り物にしてしまった。
流派を存続させることばかりに主眼が置かれた結果、独自の技術や新流派の発展はなくなり、明治維新により江戸幕府が倒れると、槍術は新時代の影響を大きく受けた。
槍術はその戦闘力の高さから、主に上級武士のみが身につけていたため習伝者の数が少なかったと言う理由もあるが、それまで武士の名誉の証となっていた槍は、武士の消失と共に立場を失ってしまったのだ。
剣術は体育などの実技、スポーツとして生き残った。だが、長物の槍は体育実技にも向かず衰退の一途を辿る。
そんな屈強な槍術使いである双子の女騎士は、ティルダ王女が白薔薇親衛隊を組織した時、そこに編成された。
彼女たちは「王女の傍らでずっとお守り申し上げたい」と泣きながら懇願したと言われているが、白薔薇の君は冷酷に「隊を仕切りなさい」と突き放したという。
彼女たちは王女に死ねと命じられたら喜んで死ぬだろう。裸で街を歩けと言われても、男たちに蹂躙されろと言われても、王女の命令であれば喜んで従う。それほど心底、妄信的に、狂信的に、王女に仕えているのだ。
だから命じられたとおり、白薔薇親衛隊にいる。
本心はこんなゲスな連中と一緒にいたくもない。だから白薔薇親衛隊にいても白い軍服を着用せず、常に白銀色のプレートメイルに身を包んでいた。
隊の男たちからは色気のないその姿に「鉄の双子」と嫌味を言われたが、そんなことはどうでもいい。彼女たちにはティルダ王女があればそれでいいのだ。
それに全身鎧の移動速度が遅いので、今回の遠征の最後尾にいたのは幸運だったと言える。
前の方で親衛隊が次々に倒れていくのに気が付いたときには、遠征軍は壊滅していた。
「おのれ! 王女様の親衛隊に手を向けるとは、どこの魔術師か!?」
「貴様たちも王女様の親衛隊であるならば立たぬか! 情けない!」
倒れ伏して痙攣している親衛隊たちを足蹴にしながら前に進んでいく双子の女騎士は、一体どうしてこうなってしまったのか分かっていなかった。
「なんだあれは」
先に気がついたのは姉のレスリーだった。
街道の上を大量の金貨が「歩いて」いる。
蜘蛛のような脚を出して、背の金貨で陽光を跳ね返しながらわらわらと移動していく。その数は大きな
本物の金貨だとしたら何百億円という価値がありそうだが、どう見てもあれは「金貨」ではない。
「金貨に擬態した魔物か? どうみるリンダ」
「そんな魔物がいるなんて聞いたことがないが、直接聞いてみるとしよう」
リンダと呼ばれた妹の方は、兜の頬当てを降ろした。
「む」
レスリーも頬当てを下ろす。
二人の目線の先に男がいた。
陽光が逆光になっているが、その美貌、その佇まい、その雰囲気………すべてがこの世のものとは思えない美形だった。
ティルダ王女以外には興味も示さない双子ですら呆けるその美貌の主────蜘蛛王コイオスは、片足を上げて「やってきたよ!」と挨拶するクリーピングコインたちを慈しむように眺めると、どこへともなくその大量の金貨を消し去った。
「……やつ一人にここまでやられたのか」
あたりを見回す。
親衛隊がピクピクと痙攣して泡を吹いて倒れている。一人として動けていない。
「ルーフ・ワーカー副隊長もか。ちっ、無能な叔父の七光め」
ピクピクして白目を剥いているルーフ・ワーカーを尻目に、双子は槍を構えた。
問答無用。素性を確かめる必要もなく、双子はコイオスめがけて突進した。
「フッ、女騎士というやつか。これは先行した甲斐があったな」
おっさんたちとのジャンケンなる競技に負けたコイオスは、かなり先行して敵の動きがあれば蜘蛛を使って知らせる係だった。
まさか敵の本隊と遭遇してしまうとは思ってもいなかったが、
街道にコインがばらまかれている時点でおかしいと思うのが普通だが、金の力は人を馬鹿にしてしまうらしい。
先走って敵を壊滅させてしまったことを、あとでおっさんたちから怒られるかも知れないが、別に悪いことをしたわけではない。
むしろ、今から悪いことをするつもりだ。
「さぁ、女騎士たちよ! 是非とも『くっ、殺せ!』と鳴いてもらおうか!」
神々の戦いでは、敵の
もちろん数分後には「ああーん♡」と瞳にハートマークを浮かべて自分からいやらしく身体をくねらせることになるのだが、そこに至るまでが楽しいのだ。
「今回はどの蜘蛛を使うか……」
顎に手をやって哲学者のように考え込むコイオスの、胸と腹を容赦なく槍が貫く。
レスリーとリンダの双子は会心の一撃だと自負できた。
だが
「私を貫いたつもりか? 私が貫かれてやったのだ」
セイヤー曰く「コイオスの負け惜しみ」と呼ばれるそのセリフは、双子を恐怖させるのには十分な効果があった。
さらにコイオスの背中から、自分たちの太ももより太く巨大な蜘蛛の足が現れた。
逆光の中で蠢く巨大な蜘蛛。しかしその美影身を見た双子は、恐怖より美貌の虜になって抵抗することも忘れていた。
「「 く、殺せ! 」」
蜘蛛糸に絡められ、プレートメイルを剥ぎ取られた双子の女騎士は、身を
「おおー、本当に言うんだ、それ」
ジューンが感心する。
「なんかエロくない?」
コイオスに追いついたおっさんたちが見たのは、街道上に転がる白い軍服の連中と、蜘蛛糸に絡め取られた美女二人だった。
美女たちは中途半端にプレートメイルを脱がされ、肌着が切れてチラチラ素肌が見えている。
決してグラマラスではないが、拘束されて服が破けているというシチュエーションだと、かなりエロく見えてしまう。
ちなみにセイヤーは麻痺した連中を魔法で捕縛し、街道の往来の邪魔にならないように端にふっとばす作業中だ。
「私達をどうしようと、心はティルダ王女のもの! 好きにするが良いさ!」
レスリーが悲鳴に近い金切り声を上げる。
「そうだ! 私達は決してお前たちには屈しな……おほぉぉ♡」
「ど、どうしたリンダ!」
「なにかが! 何かが私のあはぁぁぁぁ♡ なにこれやだこれいいこれ♡ だめ我慢できなオホォォォォォ♡♡」
「リンダぁぁぁぁ! 貴様ら、妹になにをした!!」
「………ほんとに何したんだよ、お前」
ジューンとコウガが冷たい目でコイオスを見る。
「淫夢蜘蛛、振動蜘蛛、淫愛液蜘蛛。ありとあらゆる快感の地獄に落とそうかと」
「名前だけで想像がつくが、その地獄に落ちるとどうなるんだ」
ジューンは白目を剥きながら問う。
「ああなる」
完全にアヘ顔を決めて不自然なピースサインを両手で造り、ズボン姿でM字開脚しているリンダは、全身汁まみれだ。
「なんの液体だよ、あれ」
「蜘蛛の体液だ。肌に触れると催淫効果がある。あと、美肌効果も」
「最後の一線は超えてないけど、ある意味、女騎士のプライドをズタボロにする拷問だよね……ダブルピースさせちゃうとか、どんだけマニアックなのさ、コイオス」
コウガですら白目を剥いている。
「神々の戦いでは、捉えた戦乙女をこうやって辱めて無力化したものだ。懐かしい」
「やめろおおおおおお!! リンダを! リンダを離……おほぉぉぉぉぉぉ♡♡♡♡」
姉のレスリーも瞳にハートマークを浮かべて素っ頓狂な声を上げた。
「
ジューンとコウガは二人の女騎士に合掌し、コイオスに「やりすぎるなよ」と釘を差し、セイヤーの手伝いに向かった。
そんなおっさんたちが戻ってくる頃には、女騎士たちはほっこりと茹で上がっていた。
蜘蛛糸の拘束も解かれているというのに、コイオスの脚にしがみついて上気した顔をすりすりしている。
「あいつ、あの女性たちを快楽で洗脳したようだぞ」
セイヤーが呆れたように言う。
「フッ、お前たちの主人は誰だ」
「「 コイオス様でしゅ 」」
もう駄目な感じがする。人としての尊厳も失っているようだ。
「フッ、私の犬となるか?」
「「 わんわんお! 」」
調教も始まっているようなので、おっさんたちはコイオスをほっといて先に行くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます