第23話 閑話・ミュシャの独白

 わたしは猫頭人身族ネコタウロスのミュシャと申します。


 元冒険者で、今はファルヨシの町で冒険者検定を行う冒険者ギルドの試験官として、細々と生きていました。


 冒険者ランクはCです。


 私達の種族は人間より遥かに俊敏ですし、爪もアダマンタイトですから、どんな武器にも競り勝てるので「戦場の殺し屋」と呼ばれていました。


 そんな私達猫頭人身族ネコタウロスは、アップレチ王家の「狩り」の対象でした。


 強い私達を、軍隊や飼いならされた鳥獣で追い詰め、王族が射殺す。鷹狩りとも言う「お遊び」らしいです。


 アップレチの王族にとって猫頭人身の私達は人ではなく獣なんでしょう。


 私は田舎出身なので直接被害にあったことはありませんが、私の一族は王家に殺されている、という話はずっと聞かされて育ちました。


 冒険者として名を馳せはしましたが、引退したのも王家絡みです。


 化物が冒険者の上位ランクとは何事か。他国に恥ずかしいのでやめさせろ、とギルドに圧力をかけたんです。


 冒険者ギルドは国に拘らない組織なので、これを一蹴しようとしていましたが、軋轢が生まれると後々面倒なので、自ら引退しました。


 するとギルドが試験官として雇ってくれたのです。


 ギルドマスターの一人でもある「柔らかなエリール」には頭が上がりませんね。


 それに、ファルヨシの町に魔王軍が攻めてくるという状況で孤軍奮闘するコウガ様を見て、彼の元に行きたい!と無茶苦茶な主張した私を、彼女は笑顔で送り出してくれました。


 コウガ様と一緒になって後悔? いいえ、まったく。


 コウガ様は見た目が異なる私にも全くなんの偏見も差別もなく、当たり前のように接してくれます。


 もちろん種族的身体の違いなどはちゃんと区別して接してくれます。これほど私のことを「女性」として扱ってくれた人間は見たことがありません。


 身長も2メートルと人間よりずいぶん高いですし、筋肉ありますし、まぁ、人間から見たら男か女かわからないでしょう。なのにコウガ様は「美しい」と私の顎の下を撫でてくれます。


 うん、完全に猫扱いです。


 ですが、心地よいのです。


「すべての猫は女性的なフォルムをしている。いや、女性はすべて猫」


 と、猫好きなコウガ様は仰る。すごく嬉しい言葉です。


 こんなことを言ってくれるコウガ様の第三夫人として、誠心誠意尽くそうと心に誓いました。


 第一夫人はツーフォーさんかジルさんです。どっちが第一でも別にどうでもいいのです。私が三番目というのは確定で、揺るぎないことですから。


 もちろん私の三番目という立場を狙う女がいたら、このアダマンタイトの爪でいろんな女らしい部位をえぐり出しますけどね。











 今は魔王領の中を「進軍」しています。


 なぜか私達の後ろには、魔王軍がずらりと並び「打倒魔王!」と声高らかに連呼しているのです。


 先頭に立つのは金色の鎧を身にまとったコウガ様。


 そのコウガ様を背に載せているのはブラックドラゴンの元の姿になったジル様。


 そのコウガ様の横に立ち、ちょっと色っぽいポーズで後続の魔王軍を煽っているのがツーフォーさんと、私。


 続いているのは魔王軍だけではありませんね。


 有翼族ハーピュレイ

 人頭馬身族ケンタウロス

 人頭蛇身族ラミアー

 人頭魚身族マーメイド

 人頭蜘蛛身族アラクネ

 竜頭人身族ドラゴニュート

 牛頭人身族ミノタウロス

 単眼族モノアイ

 鬼人族オーガ………。

 魔王領に多く住んでいる亜人種族が大行進です。


 その数は数万、数十万、数百万?


 魔王軍の全兵力を遥かに超える数で、この進軍は後の世で「コウガの百鬼夜行」と呼ばれる伝説となるよう、私がいろいろと画策して情報を拡散しておくことにします。


 それにしても………どうしてこうなったんでしたっけ?


 ええと。


 行く先々で揉め事があって、それを処理していたらこうなりました、以上。ですかね。


 と言うか、魔王は魔族や亜人種から嫌われすぎじゃないですかね?


 噂では東の勇者と北の勇者も魔王城目指して移動中だというので、どこかで鉢合わせになるかもしれません。


 東の勇者は、リンド王朝が誇る天才宮廷魔術師と、女魔族、そしてとんでもないことに伝説の旧神たる巨人テミス様を従えて。


 北の勇者はディレ帝国の王女と侍女、そして魔王軍から離反したダークエルフ族を従えて。


 私としては、他の勇者には出会いたくないなぁと思います。


 コウガ様と同じくらい凄い方々なんですよねぇ。


 性格が悪い人だったらどうしようかな、と。


 あ。語り終わってしまいました。


 私短くないですかね? 亜人種が合流した物語すべて語るとかで………え、それは大丈夫? では、何を語りましょうか………。


 あ、すべて語尾に「ニャン」と付けて下さい。言い忘れてました。


 あははは。猫頭人身族ネコタウロスは猫じゃないんですから、ニャンとか言いませんよ、本当は。


 コウガ様がそうされたがってるような気がしているので、ニャンと言ってます。


 気のせいです? そうですか。では普通に接することにします。


 そうですね。最近のことですか。うーん。


 あ、そろそろ換毛期です。


 毛が冬毛から夏毛に変わるんです。人間はないんですよね。羨ましいような毛がなくて可愛そうなような。


 コウガ様に一度それを言ったら「確かにスフィンクスって猫は毛がなくて寒そうな感じがしてかわいそうに見える」って同意されていましたよ? すふぃんくす、が分かりませんが、コウガ様の世界には毛のない猫がいるそうです。


 換毛期は体中が痒くなるんですよ、ほんと、いやになっちゃう。


 あと、発情期も来ますね。


 わかっています。私は三番目ですから。お二人が事を成すまで、ぐっと我慢の子です。

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