第22話 閑話・ジルの独白

 われは『魔法の神』と名高いブラックドラゴン『Zirnitraツィルニトラ』の孫である。


 我が祖父Zirnitraより名の一部をいただき『Zirジル』と呼ばれておる。


 齢1800歳。おそらく、多分。


 人間で言えば18歳。まだまだ若輩者のドラゴンだ。


 ブラックドラゴンとは「十色ドラゴン」と呼ばれる上位種で、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒、白、透明のドラゴン種族がそう呼ばれておる。


 その中でも我が祖父『Zirnitraツィルニトラ』はエンシェントドラゴンとも呼ばれ、もう数百万歳を数える御方で、全知全能と言っても差し支えない偉大な御方じゃ。


 だが、まぁ、年は取りたくないもので………一族の中でも随分と傲慢で不遜な態度をするものだから、あまり好かれてはおらぬ。


 ご本人もそれを自覚してか、リンド王朝の北西部にあるダンジョン最深層に引きこもっておられるそうじゃ。


 そのダンジョンはなんとティターン十二柱が一人、法・掟の女神たる巨人テミスが管理されている「旧神の寝床」らしい。


 そういうところであれば祖父様も安心して過ごせるであろう。


 いずれ旦那様コウガとお訪ねしたいものじゃ。


 そうじゃった。旦那様との話であったな。


 そもそも我は「アップレチ王国をぶっ潰すこと」に協力し、その見返りとして旦那様とつがいになるという契約で同行している。


 途中まではそのように行動していたはずじゃが、今は「魔王討伐」に変わっておる。


「アップレチ王国をぶっ潰すこと」を他者に任せた時点で、我はなんの協力もしておらんことになってしまうし、つがいと認めた相手に付き従うのが妻の務め。最早もはや契約云々など、どうでもいいのじゃ。


 旦那様が他に女を作っても我の目通りが良ければ、それもよし。我が目に適わぬ下賤な女は決して旦那様に近づけさせぬがな。


 その点、ツーフォーはまぁ仕方ない。


 最初から旦那様のお世話をしていた女だし、魔力の程からしても申し分ないじゃろう。


 ただ、どこかこう………精神が………病んでおるというか、狂っているような気もしないでもないが………旦那様に危害を加えるのでなければ良しとしておこうか。


 ミュシャとかいう猫の頭をした女も戦闘力と機敏さはピカイチじゃ。それに我やツーフォーを越して旦那様の一番になろうという腹もなさそうで、好感が持てる。


 さてさて。


 魔王領は全周囲に魔法障壁が張り巡らせてあったが、我が爆炎吐息デミフレアナパームを叩きつけたら、妙ちくりんな塔と一緒に吹き飛びおった。


 それからは戦いも何もなく、平和に魔王城目指して進んでおったんじゃが、突然旦那様が「ヤバイ」と言い出した。


 何事かと思ったら「僕、防具全く身に付けてない!」と今更なことを言い始めた。


 確かに旦那様は剣聖とかいう寡黙な男から受け継いだ二本のショートソード以外、なにも身に付けておらぬ。


 魔王とやらがいかほどのものか知らぬが、ただの人間の男と何も変わらぬ旦那様が攻撃を受けでもしたら確かにヤバイかもしれぬ。


 そこで我らは魔王領の中でとびきりの防具を探すことにした。


 噂では都合よくこの領内に「昔現れた勇者が着ていた黄金の鎧」が封じられているとか。旦那様は本当に運が良い。


 早速探すとしようか。











 簡単に見つかった。


 見つけたのは旦那様じゃ。


 魔王領内で人間を敵視していない中立的立場の町に立ち寄った際「なんか心許ないから適当に鎧でも買うかー」と入った防具屋でのことじゃ。


 そんなものがなくても我が「竜守護ドラゴニックオーラ」で守っておるぞと言っておるのに旦那様は「いやいや、マジで怖いんだから。剣とか飛んできたらどうすんの!?」と言って聞かないので好きにさせたんじゃ。


 そうしておったら、魔王軍がたまたまやってきてのぅ。町の品々を勝手に接収したり、街の女魔族たちを慰安に差し出せとクダ巻いておった。


 しかし町の魔族たちの話を聞く限り、彼奴らは正規の魔王軍ではなく、傭兵みたいなものらしい。前線に行かず領内で幅を利かせて好き勝手やっておる魔族の中のクズじゃ。


 そのクズども相手に旦那様が腰を上げた時、なんとなんと! 捕虜にしておった(存在すら忘れておった)イーサビットという魔族が同族達に立ち向かっていったんじゃ。


 彼奴きゃつは魔王軍南方侵攻団の団長で、魔王軍の中では上の方にいるエリートじゃが、性根が魔族にあるまじきクズなので部下にも見捨てられて捕虜になった哀れな男でのぅ。


 クズがクズを見て自己嫌悪にでも陥ったのか、それとも同族嫌悪か………「それでも魔族か!」などと自分のことを顧みないことを言い出して、一対多数で大喧嘩じゃ。


 捕虜とは言え、我らも数日間一緒に旅した者として加勢しようかと相談しておった時、これまた偶然にイーサビットの元部下たちもアップレチ王国からの帰還途中でこの町に寄っておってのぅ。


 可笑しい話じゃが、悪党相手に孤軍奮闘しておるイーサビットを見て元部下たちが加勢を始めたんじゃ。


 元部下たちの指揮を取っていたのはクリストファーという占術師で、「随分とまっとうな心根になったようで」とイーサビットの有り様を褒めておった。ふむ、こやつが謀反の張本人じゃろうな。


 で、下衆な傭兵たちは正規軍の相手ではなかった。


 当初の目的である「勇者の鎧」は、争いを無事に収めたということで、防具屋の店主がタダで旦那様に納めた。店にあったのか………随分と安っぽいところにあったもんじゃ。


 勇者の鎧は金色の軽鎧で、見た目が派手で目に痛い。


 特段なにか特殊な能力があるようには見えぬが、我は鑑定能力がないし、ツーフォーもないらしいからのぅ………ただ、勇者が着ておったということは、なにかあるのじゃろう。


 鎧を手に入れて「これで生き延びられる」と嬉しそうにしておった旦那様のところに、イーサビットと元部下たちがやってきて────そのまま旦那様の配下になった。


 なんでそうなったのか? 我にもわからん。


 魔王討伐に魔王軍の精鋭を連れて行く勇者。もう意味がわからぬ。


 じゃがな。我は楽しいぞ。


 1800年(多分)生きておる我が身でも予測できぬ事が起きる。これは面白い。


 この先、まだなにかありそうで我はワクワクしておるぞ!


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