第3話 セイヤーは枯れ専について教わった。
エーヴァ王女は、丸テーブルの上にドサっと本を置いた。
紙の質感ではない。
表装は木で、中身は羊皮紙のようだ。
そしてエーヴァが何を説明するのかと思いきや
「自分と大きく年の離れた男性は恋愛対象になりますか? というアンケートの集計です」
「それをなぜ今ここに持ってきた?」
セイヤーが困惑するのを無視してエーヴァは内容について熱弁を展開した。
「これによると我が国の女性は80%以上『恋愛対象になる』という結果がわかります。次に、何歳くらいまでが恋愛対象になるのか問うたところ、最多は50歳くらいまでとなりました。セイヤー様は年の頃おいくつでしょうか?」
「………44だが……」
「ではセーフです!」
「セーフ」
日本の若者言葉がポンポン飛び出すのでセイヤーは面食らった。
「次は何歳差までOKなのか調べました。その結果、一番多かったのが20歳差まで大丈夫というものです。18歳の私だとちょっとオーバー気味しますが、許容範囲です」
西洋人の年齢はわかりにくいが、この女はまだ18歳なのか………と、セイヤーは項垂れた。自分の子供だとしてもおかしくない年齢だ。
「王女。私が知りたい情報はそういうものではなくて………」
「ではこうした『枯れ専』の女性は、年の離れた男性のどこに魅力を感じるのかについてですが」
聞いてくれない。
「やはり経験豊富とか、包容力とか、肝が据わっているとか、お金持ちとか、欲が薄いとか、そういうところに魅力があるという結果でした。納得ですね!」
フンスと鼻息が荒いエーヴァ王女に驚きつつも、セイヤーは「人付き合いって難しいな」と再確認した。
セイヤーの勇者特性。
それを調べることは、目下、帝国最大の目標である。
せっかくの勇者なのに、特性がわからず終いだと宝の持ち腐れなのだ。
更に言うと、特性がわからなくても魔族が攻めてきたら勇者が最前線に立たされる。無力のままなら、死ぬのは確実だ。
『悠々自適のリタイア生活が、よりによって命がけの冒険譚になるとは』
セイヤーは舌打ちしながらも、召喚された当日から様々なテストを受けた。
だが、なにもわからない。今のままでは普通のおっさんだった。
「伝承によると────どんな魔物でも従えるテイミング勇者、精霊を使役するサモナー勇者、どんな攻撃も跳ね返すリフレクション勇者、描いた文字の意味を実現できるカリグラフィー勇者、畑を耕したらどんなものでも育てられるファーマー勇者、自分の痛みの数千倍を相手に与えるスーサイド勇者、とにかく女性を洗脳する勢いで惚れさせてしまうハーレム勇者………様々な勇者がそれぞれの国で召喚されたことがあると、記録があります」
エーヴァ王女も少し焦っているようだ。
ディレ帝国が呼び出した勇者が無能だとしたら、戦後の三大国家におけるパワーバランスにも影響が出るのは明白だ。
「その勇者たちは、今どうしているんだ」
「こちらの世界で生を全うしてお亡くなりになっております。勇者が暮らしていた町村には大体記念碑や像があります」
「その勇者たちの遺物を見たほうが理解が早いかもしれないな………」
「ここまで体外部分で結果が出ないとなると………実はセイヤー様は性技がすごい勇者様、とか………」
「それはない」
セイヤーはこの年齢まで女性と交わったことがない。金銭を支払って女を抱いたこともないし、素人も当然相手になったこともしたこともない。
人付き合いが下手というだけで、44歳にして生粋の童貞になってしまったのだ。
もちろん、そうなってしまったことに後悔はないし、別に困っているわけでもないので当人はどうでもいいと思っている。だが、周りから見たら「なにか異常があるのではないか」という奇異の目を向けられるので、黙っていることにした。
「あと試していないのは────魔法ですかねぇ」
エーヴァが困ったようにつぶやく。
「魔法? ほほう」
初めてセイヤーはこの世界に興味を持てた。
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