第24話 ジューンはテミスと向き合った。

「不老の薬について」


 ジューンが問うと、女神のテミスは「ん?」と唇を突き出した。


「質問に応えるためには女神に接吻を」


「そういうシステムなら、質問しない」


「冗談だ。何が聞きたい?」


「エリゴスやテミスがどれだけ長寿なのか理解できないが、もしクシャナが望むのであればその薬を彼女にも分けて欲しい」


「無論そうする。むしろ無理矢理にでも飲ませるつもりだ」


「どうして?」


「私だけ永遠とも言える時間を過ごすのは飽々だからな。クシャナやエリゴスもこの永久の人生に巻き込んでやろうと。おおっと、まさか俺はいらない、とか言うなよ?」


「いや、いるよ」


「これは………ちょっと意外だった。ジューンなら『いらない。人生は限りあるから美しい(キリッ)』とか言うと思っていたが」


「いや、どんだけ俺を美化してるんだ。40すぎるとそんな甘い考えなくなるぞ」


「どういうことだ?」


「体のあちこちにガタが来てると自覚できる。このまま老体になったら不自由するんじゃないかと予見できてしまうほどに。不健康な不老不死なんてまっぴら御免だが、この世界に来て俺は健康だ。不老になるなら今しかないと思うぞ」


「若返りたいという希望はないのか?」


「いまさら青二才になってもなぁ。40代男の渋みにも慣れてきたし」


「私は若かろうが中年だろうが老人だろうが、愛すると誓おう」


「嬉しいことを言ってくれるが、俺は誰ともどうにもなるつもりはない。魔王を打ち倒したらどこか遠く人目のつかないところで細々と生きていくつもりだ」


「どう生きていくつもりだ?」


「そうだなぁ………朝頃起きたら畑の手入れをして」


「起こすときはキスで起きたいか? それとも○○○」


「おい女神、自主規制ピー音入ってるぞ。てか、一人で起きるからいい」


「じゃあ私は朝食の準備をするとしよう。パンとハムエッグか?」


「若い頃は朝から米食わないと力がでなかったが、今じゃパン一枚食い切るのにも胃の体力が必要だとわかった。朝イチでそんなに胃が活性化されていないから、スープだけでもいい」


「じゃあそうしよう」


「いやまて。なんで一緒に住んでる前提で話が進んでる? 俺は一人で住むつもりだが」


「ははは」


「ははは………?」


「そんなの婚約者が三人もいるのに許されるはずがなかろう」


「えぇ………?」


「人里離れたところで、というのは私も歓迎だ。クシャナはともかくエリゴスと私は人間の町などでは暮らしにくい。私の場合は特に、たまにはもとのサイズに戻って羽根を伸ばしたいからな」


「まて。俺の前の世界では一夫一妻でだな………」


「本妻は人間のクシャナ。あとは魔族と女神。人間ではないから問題なかろう」


「そういうものなのか?」


「ああ、そういうものだ。それより早く魔王を倒しに行こう」


「どうして?」


「他にも後二人勇者が召喚されているのだろう? そやつらに遅れを取っては今までの努力が全て無駄になってしまうぞ」


「勇者三人で協力して………」


「そんな甘い話があろうか。三大国家それぞれが『わが勇者こそが魔王の首を持ってくる真の勇者だ』と信じ切っているだろうし、実際その真の勇者がいる国の権威が増すのは目に見えているからな」


「三カ国で協力するのではなく競い合っていたのか!?」


「協力するという話が一度でもあったのか?」


「………あったような、なかったような」


「なんにしても先んじて損することはあるまいよ」


「日本人としては横並びの協調性を重視したいところだが、テミスの言葉に従おう」


「ニホンジン?」


「いや、こっちの話だ。他の二人も呼んでくれ。先んじるなら少しでも早く魔王城を目指したい」


「うむ。そうしよう!」


「そして魔王にもしも俺が負けることがあればという話なんだが………」


「ないわ」


 テミスはジト目でジューンを見た。


「その力で倒せぬ者などいない。余裕でいけばいい。もし倒されることなどあれば、私達も後を追う」


 そんな会話をしているとクシャナとエリゴスもやってきた。


「三人に命令だ」


 ジューンは真剣な顔で言った。


「死ぬな。なにがあっても天寿を全うしろ。後追いで自害など以ての外だ」


「「「 ……… 」」」


 三人は顔を見合わせた。


「わかったな?」


「「「 はい、あなた 」」」


 あなた。


 その言葉のニュアンスと女たちの表情の「でへへー♡」感から、有耶無耶のうちになにかが定められてしまった気もしたが、とりあえず魔王討伐だ。

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