第15話 ジューンは旧神から説明を受ける。
ティターン。
それは不死者たる神々の戦いによって、今の神々に破れて地の底に封じられた「旧神」たる巨人族の総称である。
テミスはティターン12柱にも数えられる神で、法・掟の女神と言われているらしい。
「まぁ、たしかに地の底ではあるが」
ダンジョンの最深部で待ち構えていたダンジョンマスターがまさか封じられた神だとは。
よくよく見ると玄室の端々は実に生活感がある家財道具ばかりだ。サイズは段違いにデカいが天蓋付きのベッドやテーブルに台所。あっちはトイレだろうか。
なるほど、ここでダンジョンマスターとして金を得て生活しているのだろう。
『さて冒険者達よ。ここまでたどり着いた初めての客人として褒美をつかわそう』
「………戦わないんですかね」
神と言われたので敬語を使う。
日本人の一般的なサラリーマンで営業職としては、そのあたりは弁えているのがジューンだった。
『は? 人間が私と戦うつもりか!?』
テミスは驚き、次にククククと笑いをこらえた。
『知らぬようだが、私は古き神の一人。そこの魔族以上に人間の敵う相手ではないぞ?』
「口ではなんとでも虚勢をはれるかと」
悲鳴を上げてクシャナとエリゴスはジューンにしがみついてその口をふさいだ。
「バカか! バカなのか! 相手は神! 女神様だぞ! 戦うとか不敬がすぎる!」
「そうよ! 勝つとかなんとか言う次元の話じゃないのよ! 天にツバ吐いたら自分に返ってくるのと同じで、神に勝つことなんてありえないんだから!!」
「誰か挑んだのか? 挑んだやつは努力したのか?」
「「は!?」」
「天にツバ吐いても自分に帰ってこないように努力したのか。神と戦って勝てるように努力したのか」
「「バカなの?」」
クシャナやエリゴスからすると神と戦うというのは「台風と戦って勝つ」と同じくらい意味のない無駄なあがきで、それほど壮大で強大な自然災害と同じような相手なのだ。
『面白い男だ。いいだろう、私も退屈していた────手合わせしよう』
テミスは巨大な大剣を肩に担いで立ち上がった。
自身の身長ほどもある大剣は黒曜石のような鈍い光沢を放っている。
『私に一撃でも入れることが出来たら、勇者と認めてこの大剣を褒美としてとらせよう』
「あの、そんなデカいもの扱えないので………」
『持ち手のサイズに合わせて自由に大きさが変わるアジャスト機能がある』
急に女神は自慢げに説明を始めた。そこには緊張感の欠片もない。
ジューンも応じてはいるが、それよりもなによりも、階段の一番上から目の前まで音もなく空気の乱れもなく突然現れた女巨人の動きに度肝を抜かれていた。
ジューンの鬼早いスピードとは異なる空気対抗すら感じさせない動きは、まるでワープだ。
『しかもこれは軽いし丈夫』
テミスはジューンの前でしゃがみ込み、大剣を見せやすくしながら説明を続ける。
ジューンは大剣よりも、自分の頭上に若い女性の股がででーんとあることに照れていた。どんなにいい年こいたおっさんでも、女性の股間をまじまじと見るほどの勇気はない。
『ほれ、ちゃんと見よ』
「はい………」
『この大剣は今まで数万年、刃こぼれしたことがないし、したとしても自己修復するスグレモノだ。だが、私が勇者と認めたもの以外が触れると魂を吸われて死に至る【
「勇者っぽくない性能ですね………」
『む。気に召さないか? ここのツマミでステータスをコントロールできるぞ? ほら、これが
「………とんでもない武器だということはわかりました」
『うむ。だから認めた者にしか与えない』
テミスは大剣を構えた。
『今は吸収能力を使わぬ。存分に己が力を見せてみよ』
「わかりました────クシャナ、エリゴス。下がっていてくれ」
ジューンは眉をなぞるように触った。
「「知らないからね!!」」
神をも恐れぬ蛮行に、クシャナとエリゴスは顔面蒼白になりながらも玄室の端まで下がるしかなかった。
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