第12話 ジューンはダンジョンに入る。
リンド王朝の北西部にある「ダンジョン」の入り口には、迷宮内の浅い階層の地図を売っている者や武器や防具の売店、はたまた修理加工屋のテントが立ち並ぶ。
他にも回復薬などのポーション類を山のように並べている出店や、冒険仲間を募集している冒険者などでごった返し、ちょっとしたアミューズメントになっていた。
「魔族も人間も、ダンジョンの扱いは同じなのね」
女魔族エリゴスは面倒事にならないよう、紫色の肌や角が見えないように、フードを目深に被ったまま、小声で言った。
魔族領にあるダンジョンも、ここと同じような扱いらしい。
ダンジョンは一攫千金を夢見る冒険者たちにとって、アミューズメントで間違いない。但し「命がけの」という言葉が頭についてくるが。
「低層は頭の悪い魔物しかいないから楽勝。中層は亜人系の魔物が多くて連携してくるから要注意。深層は悪魔とかドラゴンとかとんでもないのがいるからかなり注意。最深層にはなにがあるかわからないけど、過去の例からすると超お宝があるわ。それこそ勇者の武器とかね」
クシャナが説明してくれている中、ジューンは凄いものを売っている出店を見つけてしまった。
『最深層に直接移動できる昇降機の鍵、アリます』
「
「ん。ああ。先達の冒険者が見つけたのよ。鍵さえあればその昇降機でたしかに最深層まで3分とかからずに行けるけど、なんの鍛錬も積まずにそこに行けば、まず生きて帰れないわね」
「敵が強いからか」
「もちろん、それが一番だけど、本来は低層から徐々に慣らしていくものなのに、一気に最深層に行ったら濃い魔素に体がやられて、頭痛とめまいと吐き気に襲われるわね」
「なるほど、その程度か────オヤジ、鍵をくれ」
「あいよ! 銀貨5枚だよ」
そこそこのお値段にジューンは少し唸ってしまった。
おそらくマスターキーの型をとってコピーしたものだろう。が、この売上を得るために先達の冒険者がどれだけ苦労したのかを考えると「仕方ない」とも思えた。
「クシャナ払っといてくれ」
「………あんた、勇者辞めたらいいヒモになれるわよ」
ぶつくさと文句を言いながらもクシャナが払う。
こうして一行は最深部までの鍵を手に入れた。
昇降機はダンジョンに入ってすぐのところにあったので、さっそく乗り込む。
「え、一気に行くの?」
「無茶ですよ」
二人から責められたが、ジューンは今まで散々努力した結果に絶対の自信があった。
最深層。
地下数百メートルなのかわからないが、ゾクッとするほど寒い。
更に息が詰まるほど粘っこい空気が満ちている。
「うわ、すごい魔素」
クシャナは嫌そうな顔をする。
「あんたは逆に元気になるんでしょ………そりゃそうね。魔族なんだから」
クシャナに嫌味を言われたエリゴスは「ふふん。この程度の魔素で弱るとは脆弱な人間めが」と、ちょっと忘れていた「魔族っぽさ」を開花させていた。
そんな二人のやり取りを無視して一本道を進んでいくと、大きな扉があった。
「最深層は一本道で10の玄室があるの。それぞれに強力なモンスターが居るのでそれを倒して最後の玄室に行くと、超お宝がある………らしいわ。なんせこの最深層は誰一人1つ目の玄室を抜けたことがないから、先がどうなっているのかわからないのよね」
クシャナにそう言われ、ジューンは「ん?」と眉を寄せた。
「先のことはわからないのに10の玄室があるって、なんでわかるんだ?」
「手前の通路で、この階層の地図を手にれた冒険者がいたからよ。それが本物か偽物かは知らないけどね」
「怪しい地図だな。なんで疑問を持たないんだ」
「わ た し は、そもそもが魔法局のエリートよ? 一介の冒険者みたいな真似してダンジョン探索する予定はなかったのよ!!」
「そうか」
文句があるなら王都で待っていればいいものを、と口に出かかったが、ジューンは言葉を飲み込んだ。
ここで余計な火種を広げないのが大人の対応というものだ。
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