第5話 ジューンは決心した。
戦いの場においてジューンに仲間は必要ない。
むしろ、技の巻き添えになりかねないので、かなり後方から見守っているだけに留めてもらっている。
半年ほどスライムの体当たりを受けたり回避したりすることで、ジューンは阿呆のような防御力と回避力を身に着けていた。
その結果………ちょっと後の話になるが………素手で大地を割るほどの力を持つ魔王が、すべてを切り裂く最強の剣「邪聖剣ニューロマンサー」でジューンを叩き斬っても、少し赤く線ができた程度だった。
防御力がそれで、回避力はと言うと…………魔王軍が放った数万本の矢が、まるで豪雨のように降り注いでも、一本たりとも掠らないレベルだ。
その尋常ならざる力が「スライム相手に来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も修行した結果」と誰が信じるだろうか。
侵攻してきた魔王軍は一瞬で壊滅させた。
剣を横薙ぎに一振りするだけで大半の魔物は輪切りにされて死んだし、高次元生命体の成れの果てである「魔族」も、ジューンからすると大した相手ではなかった。
今回の進軍は魔王軍の主力だったようだが、とにかく瞬殺である。
楽勝の対価として、普通の勇者冒険譚であれば「苦難を乗り越えて仲間と強くなっていく」という見せ場は、一切ない。
ちょっと拍子抜けしたジューンは「あ、これ、前にも感じたことがある」と気がついてしまった。
あとは剣を振り、魔法を使い、魔王軍残党達を無慈悲に葬って行くだけの「作業」しか残っていない。
こういった「俺
ロールプレイングゲームで最初の町近辺でレベル最大値にしてから旅を始めたら、とにかくつまらなかったのだ。
強かった敵を努力して倒せた! 嬉しい!
けどもっと強い敵が現れて負けた! 悔しい!
助け合っていた仲間が倒された! 許せない!
仲間と過ごす時間が心休まる! 楽しい!
そんな人としての喜怒哀楽が欠如した、なんの苦労もなく、ただ物語をなぞるだけの作業────そんなゲーム、面白いはずがない。
ジューンは「あとから苦労するくらいなら、最初に努力しよう」と、常識を逸するほど努力したせいで遊び方を誤ったのだ。
この世界に来て一年。
努力以外のことはなにもしていない。
街で売られている流行の服飾品や庶民的な食事、エンタメもわからない。
性欲や恋愛感情は加齢と共に薄れてしまっているため苦にはならなかったが、クシャナ以外の女性と話をしたこともない。
「俺、この一年なにやってたんだろう」
ふと我に返ったジューンは、貴重な異世界生活を「努力」という名の枷の中で無駄にしている気がしてならなかった。
原型がわからないほどボロボロに折れ曲がった自分の剣を見る。
空間すら裂いてしまうジューンの剣技に武器が耐えられなかったのだ。
革鎧もジューンの回避スピードに耐えられず空気抵抗と摩擦でボロボロだ。
「よし」
ジューンは一つ、大きな決心をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます