第4話 ジューンはスライムより弱かった。
「ごふっ!」
スライムと呼ばれている信玄餅みたいなぷよぷよした物体は、ジューンにタックルを仕掛け、それが見事に直撃していた。
硬さはないが、あのぷよぷよした体は意外に伸縮力があり、全身をバネにして体当たりを仕掛けられると、そこそこのダメージがあった。
まるで武術の心得のない女性が本気で殴りかかってきて、当たりどころが悪くて鳩尾などの急所にクリーンヒットするような、そんな痛みだ。
死ぬことはない。ないが、痛い。
王朝から借りた革鎧を着ていても、まったく緩和できていない。
薄い鉄と鎖帷子をサンドウィッチしたような「どんな剣も矢も絶対通さないマン」みたいな
スライムを倒すことは簡単だ。
剣を振れば空間ごと辺り一帯をバラバラにできるし、どんな系統魔法の一撃でもこの荒野ごと消滅させる自信もある。
だが、まさか防御とか回避とか、そういった戦闘の基礎がまったく身についていなかったとは。
同行していた騎士達は、そんないびつなジューンの強さに言葉を失っている。
この騎士達の中には誰ひとりとして極限魔法を使えるものなどいないし、剣閃で大地を割り雲を貫くような者もいない。だが────この勇者ジューンには負ける気がしなかった。
たぶん攻撃を当てさえすれば、そのあたりにいる子供よりも弱い。
クシャナも「やばいわ」と思った。
これでは最強の力を持っているけど魔族のデコピン一発で死ぬ、みたいなことになりかねない。
「ねぇ、これ、防御と回避も鍛えたほうが良いんじゃない?」
「ああ………そうする」
ジューンはその日から来る日も来る日もスライムと戦い続けた。
もうちょっと相手として相応しい人型のモンスターとかもいるのに!とクシャナが小言を言ったが「スライム一匹にダメージ食らうようじゃ他のモンスターとは戦えない」とジューンはとにかくスライムに固執した。
彼が小学生の頃にやっていたロールプレイングゲームでも、スタート地点の街の近くにいる雑魚モンスターを狩って狩って狩り続けてキャラクターのレベルを最大限に引き上げ、購入できる最強の武具も完備した状態から旅を始めた。
そういう面白くもなんともない苦行のような努力をして、歩く先にある石橋を叩きまくるタイプなのだ。
異世界に来て一年が経つ頃………魔族が、大量の魔物を引き連れて王都に向かって進軍しているのが確認された。魔王軍の主力部隊だ。
それを止めるために前線に派遣されたのは─────勇者一人。ジューンだけだった。
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