努力のおっさん勇者物語
第1話 ジューンは努力の人だった。
昭和生まれのバブル後育ち。
一番美味しいバブルの馬鹿騒ぎ時代はまだ中学生で、いざ自分が社会に出る時には第二次ベビーブームの人口増加の煽りを受けて、就職難の超氷河期。
面接に行けば「お前のような雑魚は掃いて捨てるほどいる」と足蹴にされ、就けた仕事は安月給の営業職。
それでも同級生には「40歳過ぎた今も契約社員のまま」という輩も多いので「自分はまだマシだ」と思っていた。
仕事は営業だが役職は花の中間管理職。
経営陣から無理難題と責任を押し付けられても給料は変わらず、若い世代は「こんなブラック企業すぐにでも辞めてやる」と脅されて育たず、とにかく仕事量が膨大だった。
しかし、言うほどブラック企業ではない。
深夜残業は滅多にないし、休日出勤もほとんどない。
ただ、有給を取るのに「いいご身分だね」と嫌味を言われても、受け流す勇気が必要なくらいだ。
そんな
若い世代のようにラノベなど読まないし、もともと活字本が好きではない
どう見ても西洋人なのにペラペラ日本語を話す異世界の人々。
50音順で文字の造形だけ違うという日本人にやさしい文法。
見たことのない奇っ怪な動物。
剣と魔法。
科学文明一切なし。
気候や地域性、建物の特徴は中東かインドあたりに酷似している。
────この状況をたくさんの時間を裂いて説明してくれたのは、小野を召喚した魔術師の一人で、王立魔法局という組織に所属している「クシャナ」という若い女性だった。
国の成り立ち、歴史背景、生活様式、文化水準………この世界の常識をクシャナから得るのに小野が要したのは、実に一ヶ月半だった。
彼が混乱も発狂もせずそれらを受け入れられたのは、あまりにも現実感がなかったせいで、数週間はフワッとした中「これって素人向けのドッキリ企画か?」とずっと隠しカメラを探すくらいの冷静さがあったからだろう。
ある程度の状況把握が終わったら王族と謁見させられ「魔族と戦うために命をかけろ」と言われた。
元の世界に戻るすべはないらしく、勝手に拉致しておきながら命をかけろという理不尽さにイラッとしつつも、小野は生まれてこの方やったことがないくらい必死になった。
実際魔物がいるし、魔族もいる。そういう者たちと戦わないと生きていけない。やるしかなかったのだ。
それと同時に「名前が呼びにくい」とクレームを付けられ「ジューン」という異世界ネームを貰った。
そんな
学生時代にやっていた部活はハンドボール部。
マイナーな競技だが、努力すれば結果につながることを身をもって感じることが出来た。
勉強も苦手ではあったが、努力した。
大学受験は死に物狂いで勉強し、なんとか普通の大学に滑り込むことが出来た。
そんな努力の人ジューンが異世界で発揮したのは「努力が身になるってレベルじゃねぇ」という異能だった。
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