第4話 おっさんたちは最強でもある。


 魔族という脅威が去った後に残ったのは、勇者とは言え所詮は余所者の、しかもおっさん。


 更に言うと、ひとりひとりが魔族以上の戦闘力を持っている………いわば歩く核爆弾のような恐ろしさを有しているので、この世界にとっては脅威の異物でしかなかった。


 そんな化物を王族や貴族に取り立ててしまったら国を盗られかねないと、誰もが懸念する。だから若い姫やお嬢様をあてがうという話は全く生まれなかったし、女たちは「おっさんは嫌だ」と拒否した。


 中には打算的に「勇者の血を得られたら利権が得られるから、お家のために身を捧げてこい」と無理やり送り出された娘もいたが、そんなクソみたいな理由のために結婚したくないおっさんたちは猛烈に拒否した。


 さらに言うと、彼らおっさん勇者たちが自分たちの派閥を持ち、勇者としての権力を確固たるものにする事を誰もが恐れた。なので、派閥作りの資金源となりそうな魔王討伐の褒美・報酬も驚くほど僅かなものだった。


 普通ならブチ切れるところだが、世界にとって幸運だったのは、この三人が三人共、出世欲が欠片もないだったということだ。


「まぁ、どんな大金もらったって、こんな文明の遅れた世界で金を使って得られるものなんて、たかが知れているからな」


「まったくだ。プライベートジェット機で世界中を旅するとか、有名アーティストを呼んでバースデーパーティーするとかいう、庶民が思いつきそうなセレブな遊びは、この世界では金があっても成し得ないわけだ」


「キャバクラでヒャッハーするんだ!とかいう女欲も衰退してっからなぁ」


 厳密に言えば性欲が枯渇してるわけではない。この世界の住民が西洋人顔ばかりで、洋モノを得意としていない彼らの食指が動かないのだ。


 コテコテの外国人が軽快に日本語を話しているけど生活様式も考え方も西洋風………この違和感は、どんなに頑張っても拭えなかった。


 そんな彼らは、元の世界に帰れるすべもなく「これから老後どうすっかなぁ」と頭を抱えた。


 そして、自分たちの尋常ならざる能力を活かして、冒険者として暮らすしかないと判断した。


 一箇所にとどまると権力者たちから疎まれることもあり、どこに流浪しても一定の身分が保証されて仕事が手に入る冒険者は、彼らにとっていい職業だった。


 問題は、現代日本と違ってテレビや雑誌というメディアがないこの世界では、彼ら勇者のことを知るのは極一部だけで、どこに行っても「おっさん、まだ冒険者やってんのかよ」と、疎んじられるということだ。











「大体さ。おっさんと呼ばれるほどおっさんでもないと思うんだよな、僕」


 コウガは憮然としながら、町の外壁を越えてこようとする銀龍を睨みつけ、拳を鳴らした。


「いや、40代ならおっさんと言われて当然だろ」


 ジューンは自分の眉を撫でる。


「下手したら20歳の子供がいてもおかしくないわけだからな」


 セイヤーは長い髪を結んだ紐を、さらに固く縛った。


「ああやだやだ。あ、けど、こっちの世界に来て良かったことが一つあるわ」


 コウガはぴょんぴょんとジャンプして準備運動を続けながら言う。


「体がいい感じ。前までちょっと近くのものが見えにくくなったり、少し走っただけで息切れするわ翌々日に筋肉痛になるわ、視界の中にごみがあるような異物感があったりしたんだけどさ。ここに呼ばれたらそういうやつ、ないんだよね。肉体年齢的には若返ってんじゃないかって思うよ」


「あー、わかる。尿のキレも良くなった。前は鼻毛に白髪混じってたけど、今はない」


 コウガの言葉にジューンも同調しつつ、大剣を構える。


「会話の内容がおっさんを越えてご老体みたいだぞ────とにかく、さっさと終わらせて晩酌と洒落込もう」


 セイヤーは杖を掲げた。


「晩酌いいね! 小さな幸せで満足できるのがおっさんの特権だ!」

「今の僕達は尿酸値を気にしなくていい!」


 ジューンとコウガも意気揚々と剣を掲げる。


 おっさん勇者たちは町の外壁を突き崩し、吠えながら侵入してきた巨大なドラゴンめがけて走った。

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