第3話 おっさんたちは伝説である。
野生のおっさんジューンこと「
その細かな装飾と曇り一つない輝きに、ギルドの受付嬢ジルファは声を失った。
背中にぶら下げているのは抜き身の大剣で、こちらも刀身に施された紋様などからとてつもない高級品だとひと目で分かる。
次に、冷徹なおっさんセイヤーこと「
金の糸で刺繍されたそれは、ぼうっと淡く光って見える。強い魔力を有している証拠だ。
手にしている長い杖の先にある水晶体は、ひと目でジルファから言葉のたぐいを奪い去った。あれは………神の宝石と呼ばれるオリハルコンではないか!?
最後に童顔のおっさんコウガこと「
「いつ見ても金とか派手すぎじゃねぇか? 年考えろよコウガ」
「いい年して真っ赤な鎧着込んでるお前に言われたかないよジューン」
「どちらも年を考えろ」
「「真っ白とかだっせぇんだよ!!」」
どこからともなく装備品を身にまとった三人のおっさんを見て、ジルファは声を失ったままだ。
『い、いま何をしたの? どこから装備品を取り出したの!? ま、まさかアイテムボックスの魔法持ちだと言うの!? それにこの装備、どれもこれも国宝級、いえ、伝説級か神話級の代物に違いない………普通じゃないわよ!』
そんなジルファを尻目に、気だるそうなおっさんたちはギルドの外に出た。
「ち、ちょっと………」
ジルファは制止しようとした。見た目は随分豪華になったが、面倒くさそうに重い体を引きずるような動きをするおっさん三人が、龍を相手にできるはずがない。
「あぁ。そうだ。言い忘れてた」
ジューンはジルファに向き直って親指を立てた。
「僕たち、ランクの高いおっさんだから心配しなくていいぜ」
「そうだ。コウガはおっさんランクが高い」
「いや、違うから。セイヤーと一緒にすんなよ」
三人は実に緊張感なくギルドから出ていった。
かつて、大陸全土に広がった「魔族」と「三大国家」による大戦は、三大国家側が圧倒的な劣勢に立たされた。
幾百億もの魔物たちによる無慈悲な人類への蹂躙はもとより、種的に圧倒的な高位にある「魔族」に打ち勝つ方法がなかった。
魔族は、元々が堕天してきた天使の成れの果てであり、そんな高次元の存在相手に、人が太刀打ちできることはなかった。
たった一人の魔族相手に数百もの軍勢が屍を晒すという絶望的な状況の中、三大国家側はそれぞれの王家に伝承される伝説に
伝説の彼の地より、魔族や魔物を退ける力を持つ勇者をお喚びすること────そんな御伽噺に縋り付いた結果、「勇者召喚の儀」は成功した。三大国家の王家が、それぞれ勇者を伝説の彼の地から呼び出したのだ。
ただ、問題があったとしたら、呼ばれたのは神々しさの欠片もないただのおっさんだったということだ。
右も左も分からない。
生活習慣もこの世界の常識もまったくわからない。
そんなおっさんたちの名前は、こちらの人間には実に発音しにくい物だったので、呼びやすいように通称が付けられた。
ジューン、セイヤー、コウガ。
呼びやすい名も出来たので国民にお披露目をする。
魔族恐れるに足らず。この勇者がなんとかしてくれるぞ、と。
だが、どの国の民も声なく絶望した。
────あんなおっさんたちが魔族を討伐する勇者!?
────無理だわー、これ、無理だわー
────堅物と陰気とトッチャンボウヤじゃねぇか。最悪だ!
しかし、堅物と陰気とトッチャンボウヤは本当に勇者だった。
東の大国リンド王朝が召喚した「勇者ジューン」は努力型の勇者で、剣に武闘や魔法まで、とにかく血の滲むような努力を重ねれば、どんな技も数倍、数百倍の威力で自分のものにした。
北の大国ディレ帝国が召喚した「勇者セイヤー」は天才型の勇者で、いかなる武芸魔法においても彼が望むがまま、すべてを掌握し、オリジナルの魔法まで作ってしまうくらい自分のものにした。
南の大国アップレチ王国が召喚した「勇者コウガ」は強運型の勇者で、本人が臨もうとしなくても自然と全てがうまくいき、ありとあらゆる事由を自分有利に書き換えた。
彼らはそれぞれの国で修行し、魔物と戦い、様々な経緯で最強の武具を手に入れ、魔族の軍勢を退けた。
そして三人は最終決戦地「魔王城」で初めて顔を合わせた。
固い握手を交わし友情を育み意気投合するような熱い語らい────などあるわけもなく、適当に枯れたおっさんは「あ、どうも」くらいの軽い挨拶を終えると、魔王とその一派をさっくり倒して、世界を救った。
そして世界は彼ら勇者を賛辞────しなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます