第2話 おっさんたちは始動した。
「何をしてるんですか、あなたたち」
ジルファはカウンター越しに立ち上がり、羊皮紙を覗き込むおっさんたちを睨みつけた。
「大銀貨500の大仕事を見てるけど?」
コウガが揶揄するように言うと、ジルファはこめかみに血管を浮かべた。
「それは300人規模の複数パーティ向けの依頼で、全体で大銀貨500です! そもそもあなた方は参加条件を満たしていないので、それは元の場所に返してください」
「参加条件?」
三人は再び羊皮紙を見る。
冒険者ランクD以上必須。C以上優遇。前衛職歓迎。
ランクDと言えば、領主がお抱えの騎士として年俸に大枚を弾んででも取り上げるほどのランクだし、ランクCともなれば国のエリート騎士団から雇用の書状が届いてもおかしくない実績と経験を認められた者で、冒険者の中でも一握りしかいない高ランクだ。
ちなみにランクB以上は相当な実績を世に知らしめた者達ばかりで、ジルファが把握しているだけだと、世界に数人しかいないはずだ。
「なんだ。俺達は条件クリアしてるぜ?」
ジューンが言うとジルファは「はぁ!?」と眉を寄せた。
「あなた、私がちょっと美人な小娘だと思って舐めてます?」
「あ、え。うん、美人……自分で言うか、それ」
ジューンはジルファの噛みつき方にキョドった。
「大体、その装備とか村の番兵のほうがよっぽど良い物持ってますよ! あなたたちはランクGでしょ!? 長いこと受付やってるんですからそれくらい見ればわかります! 舐めないでください!」
ランクG。駆け出しの冒険者のためにある称号で、冒険者としては最底辺だ。
「やれやれ。またこのパターンか」
ジューンとジルファのやり取りを聞いていたセイヤーは、低く通る声ですべてを諦めたように言いつつ、長くまっすぐな黒髪を面倒くさそうに掻き上げた。
「見た目で人を判断するとろくな目に合わないぞ、嬢ちゃん」
セイヤーは羊皮紙をカウンターに置いた。叩きつけるような粗雑な真似はしなかったが、言葉の使い方と雰囲気の冷たさから「このおっさんが一番危険だ」とジルファは直感した。
「まぁまぁ。とにかくそれ、狩ってくりゃいいんだろ? 僕たち三人でやればここにある報酬………大銀貨500、全部くれるんだよね?」
コウガが冷たくなった空気を元に戻そうと明るめに言うと、ジルファは鼻で笑った。
「弱っちぃおっさんたちが調子に乗って龍を刺激すると後々面倒なので、近寄らないでください。それに、もう討伐隊は一週間前に出発してますから今更です。その依頼書は第一陣が討伐できなかった時の第二陣募集であって………」
ジルファの声を遮るようにサイレンが鳴り響いた。
窓の外を見ると、町の人々が慌ただしく移動していくのが見える。
「ああん? なんだぁ?」
ジューンは面倒くさそうに太い眉に指を這わせた。この野性味溢れるおっさんは、本気の戦闘前には必ずこれをやる。
「外の声からすると、その銀龍討伐に失敗して龍が町に報復に来ているそうだ」
セイヤーは腰まである長いストレートの髪を束ね始めた。
銀髪も混じるその髪は、決して加齢臭などしないのだが、40越えたおっさんがポニーテイルにする様はあまり頂けたものではなかった。
「ふ~ん。来たのか。じゃ、行く手間省けたな」
最期に童顔のおっさん、コウガが拳を鳴らす。
「ちょっと、あなた達……」
ジルファが銀龍襲来に青ざめながら声をかけた時、村人と大差ない軽装だった三人の体が薄く輝きを放った。
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