三人のおっさん勇者が小さな幸せのために日々適当に冒険する物語。

紅蓮士

第一部「おっさんたちは勇者である」

序章

第1話 おっさんたちはやってきた。

「「「おっさんって言うな」」」


 冒険者ギルドの受付に雁首がんくび揃えた男たちは、憮然ぶぜんとした口調で声を揃えた。


「うわ………おっさんが声ハモらせるとか、キモいからやめてくれ」


 精悍な顔立ちで、年齢に似つかわしくない逆三角形の体つきをした野性味溢れるおっさん────ジューンは、心底嫌そうな顔を他の二人に向けた。


「今、自分でおっさんだと自称したからな、お前」


 ジューンとは対象的に冷徹でクールな顔立ちで、体の線は細いが鋭いナイフのように研ぎ澄まされた印象のあるおっさん────セイヤーは、冷ややかに言った。


「てか、このおっさん二人と一緒にしないでくれないかなぁ。傷つくわ」


 三人目は童顔だが『幼顔の男がそのまま年を食った』ように見える小柄なおっさん────コウガはわざとらしく頬を膨らませながら言う。


「うわ、いい年してその表情。ホントにキメェぞ」


 ジューンは所謂いわゆる「ぶりっ子」のようなアピールをするコウガの仕草に鳥肌を立てていた。


「自分が老けたガキみたいなキモい顔だって自覚しろ、コウガ」


 セイヤーに至っては歯に衣を着せぬ、どストレートな言い回しだ。


「なんでも言い合える仲良しと、悪口言い合うクソオヤジは毛色が全然違うってわからせてやろうか」


 二人から責められ、コウガも少しいきり立つ。


 そんな三人のやり取りを前にして、冒険者ギルドの受付嬢────ジルファは、三人には一瞥もくれず、手元の書類を淡々と処理していた。


 細身で端正な顔立ちをしているのは、荒くれ者が多い冒険者に対して美女を受付に配置することで、少しでも荒事を緩和しようという冒険者ギルドの策略であり、どこの街に行っても冒険者ギルドの受付は美女と相場が決まっている。


 そんな美女相手におっさん三人の鼻息が荒いのは仕方ないことだった。が、無視されている。


 ジルファも慣れたもので、無視の仕方が堂に入っている。


「ちょっとジルファちゃん。おっさん呼ばわりした後に無視は良くないよ、無視は。おじさんたちは傷つきやすいガラスの40代だからね?」


 コウガは小柄な体を大きく見せるように、カウンターに身を乗り出す。


「他に冒険者がいないので今はいいんですが、ぶっちゃけ仕事の邪魔なんであっち行ってくれます? おっさんたち」


 ジルファは淡々と言い放った。


 もちろん言いながらも書類に視線を這わせていて、三人のおっさんには一瞥もくれていない。


「いやいや。いい仕事あったら回して♡ って、お願いしてるわけじゃない? 冒険者ギルド職員としては斡旋すべきじゃない?」


 コウガは一歩も引かない。


「仕事は自分でチョイスしてください。大体、今日町に来たばかりの新参冒険者が馴れ馴れしいんですよ。これだからおっさんは!」


 ジルファは嫌味も垂れながら羽ペンをクイッと動かして、ギルドの壁にあるコルクボードを指し示した。


「はぁ。おっさんに世間の風は冷たいねぇ」


 コウガがチャラけている間、ジューンはこのやり取りに飽きたのか依頼書が乱雑に貼り付けられたコルクボードを見回しているし、セイヤーは長椅子に腰掛けて腕組みし、目を閉じている。






 冒険者。


 自分の命を糧に、危険な仕事と僅かな金を天秤にかける無頼の者達。


 その職業寿命は短く、30代後半までになんらかしらの報奨を得るほどの働きをした冒険者は、騎士爵や准騎士になって余生を過ごす。


 その年齢までになんの褒美も得られなかった有象無象の者たちは、町や村の衛兵や、商人の用心棒などの日雇い仕事につく。


 なんにしても40代を越えても、冒険者という危険極まりない仕事を続けている者は少ない。


 それが例え名を馳せた冒険者だったとしても、指名依頼ともなれば成功確率をあげるために、若手で実力と勢いがある者たちをチョイスされてしまう。


 それでも冒険者を続ける理由があるとしたら「他に何の仕事もできない社会不適合者」である可能性が高い。


 こういう輩は近いうちに野盗に落ちぶれる………それがセオリーだ。






 ジルファからすると、この町に流れ着いたこの三人も、近いうちに野盗落ちしそうに見える。だから冒険者ギルドの受付嬢でありながらもまともに相手をしていないのだ。


「お。これなんかどうだ」


 ジューンが依頼書の一つをコルクボードから引き剥がす。


 おっさんたちは怠そうに集まると、安っぽい羊皮紙に書かれた内容をざっと見た。


「銀龍退治?」


 その声に、受付嬢のジルファはビクッと体を跳ね上げた。

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