#014 勝利の報酬
「貴様、もう許せん! この”蛇の王”たる、おれ様の怒りに撃たれるがいい!」
烈火のような形相で心の
さすがに、もうこれ以上の話し合いは無理だと覚悟した瞬間。
「まあ待て。それなら、おれがどうしてこの料理がダメなのか説明してやる。お前がおれを本当に許せないと言うなら、話を聞いてからでも遅くはないんじゃないか?」
「なぜ、おれ様が貴様の解説など聞いてやらねばならない!」
「ふうん。王様というのは随分、狭量なんだな……。理由も聞かずに、自分の判断だけですべてを決めてしまうのか。知っているか? 人間世界ではそういうのを”暴君”と呼ぶんだ」
「ぐっ……。好き放題に言ってくれる」
「おれの説明が間違っているのなら、本気で怒ればいいさ。そのときはおれも素直に頭を下げてやる。悪い条件じゃないだろ?」
口八丁でバジー様を手玉に取る
本当にずる賢さは人一倍ね……。
「よかろう。理由だけは聞いてやる!」
「ふっ……。器だけは立派に王様クラスだな」
「やかましい! さっさと言え!」
見事に自分から話を聴く姿勢を取ってしまっている。
これでもうバジー様は試くんの手のひらの上だ。
あとは解説役が矛盾なく理論を組み立てていくだけで説得は完了する。
話を理解できないのは、自分が悪いという刷り込みを最初に植え付ける。
詐欺師のやり口だわ。
「まず、肉質自身にはなんの問題もない。およそ、考えられる限り最上級の素材だ。それは口にした瞬間、わかった」
「当然だろう。おれ様と同じく、石化の能力持つコカトリスが召喚した使い魔だ。それだけで質は保証されているのと同じだ」
そう言えば、コカトリスとバジリスクはよく混同される魔物だと伝えられる。
だからナワバリも重なってしまうのね。
「だが、肉の処理がすべてを台無しにしてる」
「な! お、おれ様が悪いと言うつもりか?」
「そうだ。まず、首を落としたあとに熟成する時間もなしで火にかけた。これによって肉が固くなってしまい、ひどく食感を損ねている」
「そ、それは新鮮な肉の感じを残すために……」
ひどい言い草だわ。
生肉なんて、火にかければ固くなるのは当たり前。
まあ、バジー様は『料理』なんて、フレンドの姿に生まれ変わって初めて知ったのだからしょうがないのだろうけど。
それでも、お肉を火で
なんだか、段々とバジー様に同情している自分がいた。
「さらに問題なのは、素材の味を活かそうと、なんの調味料も使わずに料理してしまったことだ。食性も怪しい野生種では、どうしても肉に
指摘していることはそのとおりなんだけど、現場を見ればそれは無理というのがハッキリしている。
いや、だってさあ……、お鍋ひとつもない場所でどうしろと……。
せめて、草の葉で包み焼きするくらいしか思いつかない。
「お、おれ様のしたことは間違っていたのか……」
打ちのめされたように顔をうなだれるバジー様。
いやいや、肉の臭いがどうとか、人間の勝手な言い分だからね。
そもそも爬虫類寄りのバジー様にしてみれば、臭みのあるお肉のほうがおいしいのかも知れない。
それに文句をつけるなんて……。
「もうわかっただろ。お前がどれだけ高みから他人を見下そうとも、結局はフレンドのひとりに過ぎないということだ」
「く……。人間風情に、このおれ様がどうして」
と言うか、完全に悪役だよ試くん……。
その薄笑いのを止めなさいって。
「おれ様の料理が不完全なのはわかった……」
ペテン師の結論を素直に受け入れたバジー様。
だけど、その表情はまだすべてを諦めたわけではなさそう。
視線をいま一度、試くんに向け、挑むような口調で問いかける。
「ならば、貴様におれ様の料理を超えるものが出せるのか?」
突然の要求。
でも、試くんは最初からそう言われることを予見していたように、自信有りげな態度を崩さない。
「いいだろう。お前に本当の肉料理を食べさせてやるよ」
一切の迷いもなしに強く応じた。
だ、大丈夫なのかな?
「そこまで言うのなら、相応の代償をかけてもらおう! おれ様が出された料理に満足したら、お前の言うことを大人しく聞いてやる。だが、そうでなければ……」
そこでバジー様の視線がなぜだか、わたしに向けられる。
え? なに。なんでこっちを見るの……。
「あの女をおれ様のお世話係としてもらおう」
「はあ? なんでそうなるのよ、バジー様!」
「ふふ……。王というのは、宮殿に女官をはべらせておくものだ。どうせなら、おれ様も人間の女が欲しい」
こらこらー! 何を勝手なことを……。
爬虫類っぽい存在のくせして、人間の女の子を近くに置いておきたいとか、どこのジャバ・○・ハットよ。
「いいよ。その条件で受けよう」
「こらー! 試くんまで何を調子に乗ってるのよ! いい加減、怒るわよ」
「別にいいだろ? 業務内容が変わるだけで、ちゃんと給金は払うよ」
負ける前提で言わないでよ!
そ、そもそも、女の子を賭けの対象にするなんて、いつの時代の物語よ。
わたしは絶対に承知しないからね!
「よかろう。これで勝負は成立だ……。で、日時はどうする?」
「明日の正午でいい。昼飯におれが最高の肉料理を味合わせてやるさ……」
「ふふ……いいだろう。では、明日の昼までは、おれ様も静かにしておいてやる。そこのコカトリスの使い魔にも手を出さないと約束しよう」
「決まりだな。それじゃあ、帰るとするか……」
肝心のわたしをまるっきり無視したまま、ふたりは勝手に勝負を日取りを決めて、勝手に解散しようとしている。
どうして、こうなったの?
◇◇◇
わたしたち一行は、迷宮庭園を目指して道を進んでいた。
今夜もコッカちゃんをミノタさんのところで預かってもらうためだ。
先頭にいるのがわたしで、コッカちゃんとタロスくんが真ん中。最後尾を試くんが歩いている。
コッカちゃんはさっきから一言も話さない。
やっぱり、二日連続で使い魔を失ってしまった悲しみが大きいのだろう。
そして、位置関係が示すとおり、わたしはひとりでお冠だ。
しょうがないよね。あんな条件を本人の許しもなく決められたんだから。
「そんなに怒るなよ。あの場では、なんとかバジーにこっちの条件を呑ませる必要があったんだから」
「怒るに決まってるよ! 無断でわたしを賭けの報酬にするなんて……」
「
タロスくんが勝手にわたしのバイタルを計測して警報を告げた。
どうして、こう無意味に高機能なんだか……。
「第一、この問題を最初になんとかしろって切り出したのは由乃だろ? だったら、少しくらいリスクを負うのは当然じゃないか」
「す、少しくらいですって! 試くんは、わたしがバジー様に奪われちゃっても構わないの?」
「いいわけ無いだろ、そんなこと!」
な、なによ。急に真剣な声で言っちゃって……。
いつもは子供っぽいのに、こんなときだけ妙に大人びた表情を見せないでよ。
「由乃サン。脈拍、体温ガ急上昇シテイマス。要警戒、要警戒」
「タロスくん。ちょっと静かにしていてね」
フレンドの反応が、わたしをからかっているのかボケているのか、いまひとつわからない。
「おれは絶対に勝ってみせるさ。だから、由乃をバジーに渡したりはしない」
「い、いきなり、そんなこと言われたって……」
「なんだよ、おれの言葉が信じられないのか?」
「そ、そういうんじゃなくって……」
「由乃サン、発汗発熱ノ症状ガ確認サレマシタ。診断結果…………『恋ノ病』ト症状一致。
やかましいわね、このポンコツ!
これ絶対にOS組んだの、
プログラムから悪意しか感じられない。
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