原資料 『巫女の予言』
巫女という存在が、北欧神話においてどれほど重要かということは、「その他の神々」のサーガを紹介したときに申し上げましたが、ここでは原資料である「巫女の予言」を紹介していきます。
ここで例として挙げるのは、巫女の予言の数節です。原文の典雅さは、日本語に訳すとどうしても失われますが、それは詩のもつ宿命と割りきってご覧ください。
1
すべての者よ、我が言葉に耳を傾けるべし
聖なる仲間、体躯は見ず
ヘイムダルの子よ、
神々の主よ、私が語るを望むか?
世界を始めし記憶を
2
我は巨人ら、
太初に生まれしものを知りたり
いにしえに我をはぐくみぬ
私は九つの世界を知りたり
女巨人、名高き樹、地の根のことを
3
スルトは南に、剣は燃ゆ
煌きは剣のみにあらず
死者の神の太陽もまた然り
冥界の兵はヘルに続く
破天の時は来たり
4
ガルムの咆哮の轟きよ!
その足かせ外るらし
我重ねて見ん、
力ある者に招かる黄昏を
勝者なる神の陰惨たる命を
5
そこ(ギムレー)へ
燦然と光を纏う蛇が降り来るべし
闇竜は死者を喰らい、
光の蛇は羽を照らし、
原野を行く
「解説」
巫女はヴォルヴァという名前で、1のようなオーディンへの語り掛けから始まります
それからしばらくは2のように、巨人やドヴェルグ、神々の解説らしき文が続きます。平叙文でそれらが書き連ねられていれば、何も魅力もありませんが、原文では韻を踏み、語数をそろえ、対句法を駆使しているのでしょうから、私たちの中に、惹きつけられない人がいるでしょうか?
1にあるヘイムダルの子とは、つまり我々人間でしょう。彼が身分の生みの親ということは前にも説明しましたが、この詩を見るに、人間の生みの親がヘイムダルであると解釈されています。
2からは、ヴォルヴァは巨人族が産まれた時から生きているということが分かりますが、それ以外にも彼女はオーディンの片目の行方や女神フレイヤらしき魔女の話を語るなど、膨大な知識を持ちます。“知っているだけ”かもしれませんが、それでも彼女はラグナロクをも予言しているので、やはり神とはまた別な、特別なちからを持っていると考えられます。
3にはスルトとヘルの住民、もしくはムスペルの息子たちの行進に言及しており、4ではグニパ洞窟の番犬ガルムの開放が記載されています。
5についてですが、闇の竜はニーズヘッグで間違いないかと思われますが、光の蛇とは何者なのでしょうか。手元の資料を見ても、そういった単語は出てきませんから、もしかすると、後の時代に写本する際、付け加えられたのかもしれません。もしくは詩としての体裁を保つために、ニーズヘッグと対になるようにして加えられた、オリジナルの存在かもしれません。こちらについてはわかりしだい、追記します。
※なお、こちらの詩は、私が少々手を加えていますので、原文が見たいという方は、本を買うか、ネット検索してみて下さい。
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