神秘の数「九」

 ・ニョルズとスカジが結婚した際、真っ向から意見が対立した彼らは海と山を九日ずつ交互に行き来することにした……

 ・トールはラグナロクではヨルムンガンドと死闘を繰り広げたが、その怪蛇を倒した時、彼もヨルムンガンドの毒によって九歩後ずさったのち絶命した……

 ・主神オーディンがルーン文字を発明する際、ユグドラシルに自らを自らに捧げること九日、ついにそれをひらめいた……

 ・ロキがミョルニルを盗んだ巨人スリュムを説得する際に使った言葉の中には、九日という期間が使われている……

――――――


 〈九の意味〉

 北欧神話には、「九」という言葉が多く登場する気がしませんか? ぱっと思いついただけでも四つ出てきました。

 これは決して偶然ではありません。というもの、ユーラシア大陸(中国・日本などを除く)における大半の国には「万物は九を周期にして新しくなる」という思想があるからです。私たちがいつも使う十進法では、九の次に繰り上がるので、納得のいく話です。

 この考えは、言語にも表れています。ドイツ語で九は「neun(ノイン)」といいます。そして新しいは「neu(ノイ)」という言葉で表されます。サンスクリット語でも同じことが言え、九と新しいという単語はどちらも「नव(nava)」といいます。もう少しなじみのある言語、英語で言えば、九はnine、新しいはnewですね。どことなく似ています。これも偶然ではないでしょう。古期英語で、九はniganといい、これはラテン語で九を意味するnovemと同じ語源です。そして「nova」という単語は、ラテン語で新しいを意味します。


 〈ドラウプニル〉

 ところで、主神オーディンは、黄金の腕輪ドラウプニルを所持していますが、これはミョルニルや伸縮自在の魔法の船スキーズブラズニルなどといった名だたる宝物と共にドヴェルグ達から神々に贈呈されたものです。前の二つの宝物と比べるとすこし見劣りしているかもしれませんが、これにも不思議な能力が備わっており、九夜ごとに八個もの自身と同じ大きさの腕輪を滴り落とします。つまり、九夜ごとに九個に増殖という行為が繰り返されるのです。これを持つオーディンは、まさに最高神の肩書にふさわしく、世界の創造や輪廻を司る象徴を、彼が掌中に収めているという事を示しているのでしょう。


 〈例の表すところ〉

 九という数字が「最も長い」、「生まれ変わる」や「新しい」の象徴であることがわかったところで、冒頭の例を見てみましょう。

・ニョルズとスカジにとって、互いの土地ではない場所での生活はとても“長い”ものだった。(&九日という期間を経た後、居住地が“新たな”土地に“変わる”)

・トールは毒を受けながらも“長い距離”を後ずさったが、とうとう絶命してしまった。

・オーディンはとても“長い”間ユグドラシルに吊られた。(&九日目に“新しい”発見があった)

・ロキは非常に“長い”期間を表すのに九日という言葉を使った。

 ということになります。

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