Ⅺ.その他の神々


・ブラギ 名「詩」、「第一人者」

 詩と雄弁の神で、オーディンの息子でイドゥンの夫。ロキが主要な神々全員に鋭い批判・悪口を投げかけていた際も「どんな状況下でも言葉を詰まらせることが無い」という特性を発揮して臆せずに発言しています。


・スカジ 名「傷つけるもの」

 山と狩猟の神で、イドゥンをさらった巨人シャツィの娘。単身でアースガルドへと乗り込んできた勇気と健気さから神々の仲間入りを果たしました。

 彼女は眉目秀麗なバルドルと結婚したかったのですが、足だけを見てその相手を選んだために、海神ニョルズに嫁ぎました。なお、彼らの結婚生活は、とても幸せとは言えないものでしたが……。


・テュール 名「神」

 元は天空神でしたが、「北欧神話が形成」されると同時に剣の神となります。勇敢な戦士で、勝利という語が最もふさわしい神です。

 彼が関わるエピソードには、フェンリルを束縛する時の話があります。

 ロキとアングルボザとの間に生まれたフェンリルは、幼いころはまだよかったものの、成長するにつれて神々も手に負えないほど獰猛になっていきました。ですから神々は相談して、魔法の紐グレイプニルを使ってフェンリルを縛ってやろうと決意しました。

「ほら、フェンリル。この紐で縛られてもその束縛を破ることが出来たら、お前の力強さは永遠に語り継がれることになるぞ」

しかしフェンリルにはそのいかにも弱々しい形状の紐が欺瞞の塊に見えました。

「僕は何か代償がないとそれで縛られるなんてごめんです」

 策略を感付かれ、神々は焦りましたが、その時、テュールがフェンリルの大きな口に右手を差し込みました。

「これで公平だろう。さあ、挑戦するが良い」

 こういうわけでフェンリルは神々の術数に陥って、ラグナロクが始まるまで身動きが取れなかったのですが、騙されたと思うや否やテュールの腕を噛み千切りました。そのため彼は隻腕となったのです。


・ウル 名「光輝」、「羊毛」

 狩猟と弓の神で、スキーを得意とします。シフがトールとは別の神との間に設けたため、トールの養子となります。

 またとても公正で、決闘の神とされ、その際には人間に名を多く呼ばれたといいます。

 しかし、いまいちぱっとしない神です。狩猟と弓が得意という特徴が、スカジの属性とかぶっていますし、何より神話には登場しません。上記の情報以外には青年の姿をしている、かまどの火を司る、スケートで氷った海を渡るくらいで、ますます混乱します。スキーとスケートという特技は、雪と氷の多い北欧に特有だとすこし関心はしますけれど。

 今の北欧神話は古代人の信仰をもとに、それより後世の時代の詩人たちが形成したようなものですから、とうやらウルは、彼らに忘れ去られてしまったようですね。


・サーガ 名「巫女」

 サーガは「巫女」という名の通り、役割も予言者という非常にわかりやすい神です。そして北欧神話ではこの「予言」という能力がとても高い地位を表していることが多く、彼女も例外ではありません。何を隠そう、サーガは神々の中でもフリッグに次ぐ地位に位置しているのです。

 彼女は広大な館セックヴァヴェック(この館は波の下にあると言われているので、アースガルドの海中にあるのでしょう)を所有しています。そこには主神オーディンが毎日のように訪れ、彼女と共に酌交わします。オーディンが頻繁に彼女の館を訪れるということからも、サーガの重要性が分かります。


・ヴィリ/ヴェー 名「意志/悲嘆」 

 彼らはオーディンの弟で、原初の世界において彼と協力してユミルを倒した神です。その他にも、オーディン三兄弟は人間を創造しましたが、その後は全くと言っていい程神話には登場しません。しかし、名前だけ登場することはあり、例えばフリッグがオーディンの弟たちとも性行為に及んだことを、ロキが彼女に対する非難として浴びせる場面などがあります。


・マグニ 名「力ある者」

 トールと女巨人ヤールンサクサとの間の子供で、その名には「力ある者」という意味があります。ちなみに、母親ヤールンサクサの語源は「鉄の短剣」ですから、戦闘が得意でないわけがありません。

 トールは神々の中で最も力が強いと紹介する文献もありますが、実際最も力が強いのは他でもない、マグニです。

 その強力さが垣間見えるエピソードとして、トールがフルングニルと決闘した話があげられます。

 ある時トールが最強と目されていた巨人フルングニルと戦った時(彼は従者のシアルフィの手を借りて見事勝利しました)、頭に砥石がめり込みはしたものの、トールは見事に打ち勝ちました。しかし、倒れてきたフルングニルに押しつぶされてしまい、身動きが取れなくなってしまいます。神々が力を合わせてもびくともしないほどの巨体だったのです。そこに、まだ生後三か月のマグニやってくると、力を使うまでもないといった様子で死体をひょいと持ち上げ、父親を助けました。

 生後三か月ですよ? 人間ならば、まだようやく首がすわってくる時期だというのに。それに、彼は父親を助けた後、こう付け加えます。

「どうして僕を呼んでくれなかったのさ。こんなやつ、僕のげんこつで一発だったのに」

 この話を知ってしまうと、なんだかトールの剛力がかすんでしまいそうですが、マグニには「豊穣」や「雷」をつかさどる力がありませんから、分担がされています。

 マグニはラグナロク後もバルドルやヘズと共に新世界を生き、そこで父親のミョルニルを受けついでいくと予言されています。

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