Ⅳ.ユグドラシル

 別名を世界樹や宇宙樹というこの巨樹は、全世界を貫きます。


 〈世界に伸びる根〉

 ユグドラシルの根のひとつはニヴルヘイムにあるフヴェルゲルミル泉に到達しており、そこではニーズヘッグ(:嘲笑する虐殺者)という悪竜が無数の蛇たちと共に絶えず根をかじっています。

 また巨人たちの世界ヨツンヘイムの果てにある泉にも根は伸びています。この泉の水には普遍的な知識と知恵が含まれており、ミーミル(:水をもたらす巨人)というとても賢い巨人が支配しています。彼が賢いのも毎日ギャラルホルンという角杯でこの泉の水を飲んでいるからです。ちなみに、あの最高神オーディンも、彼の知識には敵いません。これは、オーディンが世界の終末までずっとミーミルに助言を聞いていたことからの推測です。

 その根は神の国アースガルドの特別に神聖な泉、ウルザンブルン(:ウルズたちの井戸)にも伸びています。特別に神聖なのは、その岸辺にウルズ、ヴェルザンディ、スクルドと呼ばれるそれぞれ過去、現在、未来を司る運命の女神たちがおわすからです。ミーミルの泉には知恵が含まれていましたが、こちらの泉にはあらゆるものを純化する力が含まれています。泥を混じらせたこの聖水を毎日ユグドラシルにかけて、悪竜ニーズヘッグにかじられた部分を修復しているのです。ウルザルブルンにはそこから生じた白鳥のつがいが住んでいるために目の保養になる景色が見られますが、ここはただ美しいだけでなく、とても実用的な場でもあります。なんとその岸辺には神々の法廷が置かれているのです。神は事あるごとに(毎日と言ってもいいくらい)ビフレストの橋を渡り、ここで裁きを行うといいます。


 〈ユグドラシルに棲むもの〉

 ここで、ユグドラシル本体の話に戻りましょう。根のひとつにはニーズヘッグがいるのは話しましたが、その反対の、葉が生い茂る天の部分はどうでしょうか。

 まず、枝の上には非常に智博な鷲が留まっており、さらにその眉間部分にヴェルズフェルニル(風を打ち消すもの)と呼ばれる鷹が留まっています。また、ラタトルスク(走り回る出っ歯)というリスはせわしなく木の幹を上り下りしては鷲にニーズヘッグからの悪口を言い、反対にニーズヘッグには鷲からの悪口を言い、互いの敵対心を煽っています。私は天と地、そして下界を走り回る唯一の生命は、このラタトルスクだと思います。巨人はあまりヨツンヘイムから動きませんし(動くと言ってもアースガルドへの侵入くらいです)、神もヨツンヘイムへ旅するか、ヘルモーズのように緊急時に冥府ヘルへと赴くかですから、このリス、実はとてつもない力を秘めているかもしれません。

 木の枝の間には、四頭の鹿が住み、走り回って枝をかじり続けています。これもまた、ウルザルブルンに住む三人のノルン(運命の女神)たちがユグドラシルに聖水をかける要因になっています。


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