Ⅸ.神界の番人ヘイムダル

〈名前〉

 「世界を照らすもの」または「世界の花」という意味があります。北欧神話の世界はヨツンヘイムやニヴルヘイムなど、○○ヘイムという名称が多く見られましたが、つまりはヘイムという語が世界を意味していたのですね。そしてダルが照らすか、もしくは花か……。どちらにせよ、世界の門番である彼にはお似合いの名前です。名前だけで言いますと、日本神話の天照大御神に似ているようにも思えます。


〈属性〉

 彼は光の神で、おそらくフレイ達と同じヴァナ神族であるだろうとみなされています。しかし調べれば調べるほど謎が深まる神で、多くの特徴があります。

 まず、母親が九人いるというのです。ここからもう常識にとらわれてはいけないことがわかります(特にこの神については)。その中の一人が海神ニョルズの娘であることから、彼は波の子供であると思われます。

 彼は非常に優れた視力(昼夜問わず500km先まで見通すほど)と聴力(地面から草が生える音や羊の毛が伸びる音を聞き分けるほど)、さらには睡眠時間もごく短時間で良いため、アースガルドに攻め入ってくる巨人の監視やラグナロクの到来を告げる役割を担っています。彼の持つ角笛ギャラルホルンは、世界終末の時に使われ、その音色は九つの世界すべてに響き渡ります。そのため、彼の住居であるヒミンビョルグは、神々の世界とその下に位置する大地とを結ぶ虹の橋ビフレストのもとにあるという話です。ちなみに、フレイヤの娘で、アースガルドで最も若い女神フノスは、このヒミンビョルグによく訪れ、ヘイムダルの話を聞きに来ます。ヘイムダルも、幸せ者ですね。

 さらに彼の謎は続きます。ミッドガルドに住む人間は、オーディンと他二神が創った、のですが、人間の種類(身分)はヘイムダルが人間の家に泊まることで作られたというのです。なぜこのような分担が生じる必要があったのかが、理解できない点です。

 とある資料には、こう書かれています。「古代北欧では剣のことを“ヘイムダルの頭”と表現した」と。こちらも理解に苦しみます。彼の頭部は尖っていたのでしょうか? ですが、神話を読む限りではそういった描写は全くありません。日本風の考えであれば、頭がよく「切れる」ということでしょうか (笑)。

 前文で頭が切れると言いましたが、実際そういった特徴が奇跡的にも神話の中に登場します。それは、トールの宝槌ミョルニルが巨人に奪われてしまった時です。この話では、トールがフレイヤ女神の恰好(もっと言えば、花嫁姿のフレイヤ)をして巨人のもとに赴くのですが、この奇想天外な作戦は何を隠しましょう、このヘイムダル神が考案したものでした。もっと言えば、ヘイムダルはあのずる賢く、利発なことで有名なロキととても仲が悪いのです。もしかしたら彼らが犬猿の仲なのは、どちらも頭の回転が速く、ロキがヘイムダルのそれに嫉妬したとも考えられますね。ラグナロクでは当然、ロキとヘイムダルの決闘があります。結果は相討ちです。


〈外見〉

 ヘイムダルの別名は「白いアース」です。これは色白であるという解釈で良いのでしょうか? その他に歯が黄金であるという記述も見られます。

「スリュムの歌」という原資料には、彼が神々の中で最も美しいという記述がありますが、この資料は滑稽詩ですので、すぐに信じてしまうのもどうかと思います。フレイヤ、フレイ、バルドルやイドゥンなど、「最も美しい」神がこれ以上増えたら堪ったものじゃありません。

 ギャラルホルンを持っているというのも外見の特徴ですが、この笛はとても貴重なために普段はミーミルの泉の底に、オーディンの眼と共に沈んでいるとも言われます。この説を信じれば、大きな笛を持つヘイムダルの絵は、ラグナロクを前にした姿と取れます。

  

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