Ⅶ.青春の女神イドゥン

〈名前〉

 「若返らせるもの」もしくは「非常に愛されるもの」という由来が考えられています。私は前者の方が、イドゥンの性質を表わしていて好きです。後者は……、何だか漠然としていて、しっくりきません。愛されるのであればフレイヤの娘フノスだって負けてはいませんもの。ただ、こちらは「貴重品」という語源が別にあります。


〈属性〉

 他の神とは違ってあまり表立った活躍はしていませんが、重要な一柱です。彼女が守る「青春のリンゴ(常若のリンゴ)」と呼ばれるそれは、なんと食べると若返ることができるのです! 我々は喉から手が出るほど欲しい代物ですが、実はこれ、北欧神話の神々が私たちのように歳を取っていくために、神々にとっても必須のアイテムとなっています。


〈老い行く神々〉

 オーディンと彼の連れヘーニル、そしてロキは、ある時ミッドガルドに冒険に出かけました。しかしシャッツィという巨人と彼らの空腹が災難の種となり、イドゥンと彼女の魔法のリンゴが巨人の手に渡ってしまいました。

 その後、神々の身には「老化」という病が襲い掛かりました。あの最高神オーディンとて例外ではありません。関節のきしみ、頭部の脱毛、痴呆、皮膚の皺や体の収縮など……。それはそれはこの世の老化をすべて寄せ集めたような具合でしたので、皆大いに困りましたが、ロキとイドゥンだけが見当たらないことに気が付き、老体に鞭を打ち神々は彼を探し回ります。とうとうロキが見つかると、神々は彼が何をするよりも早く拘束します。ロキはオーディンに「イドゥンを連れて帰らなければ殺す」と脅されたため、フレイヤの持つ鷹の衣をまとって元凶であるシャッツィの元へと飛び去って行くのでした。

 さて、ロキがシャッツィの館に着くと、炎とその煙に包まれたイドゥンを発見しました。幸いここの主とその娘スカジは留守でした。この策略家がルーンを唱えるとイドゥンはたちまち一つの小さな木の身になります。そしてアースガルドに直行します。

 その後を追う鷲の姿のシャッツィは、神々の用意していた炎にあえなく燃え移られ、殺されます。そうしてひと段落して、ロキが鷲掴みにしていた木の実の魔法を得意げな顔をして解くと、そこからイドゥンが突然姿を現し、何事もなかったかのように無邪気に振る舞います。こうして老いた神々に青春のリンゴが分配されると、また彼らは平和な暮らしを満喫し始めます。

 その後、彼の娘スカジが激情に突き動かされて単身でアースガルドに殴りこんでくるのですが、これはまた別の機会に。


 〈外見〉

 彼女はお人好しで美しく、「青春のリンゴ」を入れた籠を手に提げています。また灰色の大きな瞳の持ち主で、フレイヤと共に最も美しいとされている女神でもあります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る