Ⅴ.愛欲神フレイヤ

 〈名前〉

 フレイヤは、「女主人」という意味の名です。女主人という言葉が夫であるオーズに対してなのか、はたまた他の神々・人間たちに対してなのかは分かりませんが、個人的には後者でしょう。他にもマルデル、ヘルン、ゲヴン、スュールなどといった別称を持ちます。古くはフロイヤと発音されてたそうです。


 〈属性〉

 アースガルドにすむ数少ないヴァナ神族の一人で、フレイの妹です。子供のいなかったフレイと違って彼女は豊穣神、もとい愛の神に相応しく、男神オーズとの間に娘を二人設けています。フノスとゲルセミです。このフノスという女神は神々の中で最も若く、神々の中でその訪問を歓迎しなかった者はいないと言われています。

彼女は豊穣と同時に愛欲をも司る女神です。そのためか、少々性的にだらしない面があります。海神エーギルの館で神々が宴会を催していた際、彼女がその場にいた多くの男神と肉体的関係をもっていたことをロキにばらされていましたし、兄と近親相姦を繰り返すうちにその現場を他の神に見られて恥ずかしい思いをしたという説話があります。また、彼女がいつも身に着けているブリーシンガ・メンという首飾りを手に入れる際には、それを手に入れるため四人のドヴェルグ達に一人一晩ずつ性的な快楽を与えてやりました。


 〈夫オーズの失踪〉

 列挙していくときりがないのですが、そんな彼女にも一途な面があります。ある時夫のオーズが突如アースガルドから失踪してしまいました。そのことを知った彼女は悲しみに暮れ、涙を流しながら世界中を回ったのですが、その涙こそ、私たちがよく知る金であるのです。娘のフノスはいつもビフロスト橋の麓にいるのですが、これも父親をいち早く見つけるためです。ちなみに、彼女がオーズを見つけた際にはその喜びから一歩ごとに花が咲き、春がよみがえったといいます。


 〈猪〉

 彼女は女神らしく二頭の猫が引く戦車に乗りますが、それ以外にもヒルディスビニという猪にも乗ります。フレイといい、フレイヤと言い、彼らは兄妹そろって猪に乗っていますが、これには理由があります。それはズバリ、猪が多産の象徴だからです。考えてみれば、猫も十分多産です。

 そういえば、先ほど「戦車」というワードが出てきましたね。そうです。実は彼女は豊穣神である上に愛欲の神である上に戦の神でもあるのです。戦の神としては、オーディンと共に戦争の勝敗や敗戦者の管理といった仕事をしています。フレイがもつ(そして途中で手放す)勝利の剣と言い、戦を司るフレイヤと言い、ヴァン神族は豊穣の神族であると同時に戦の神族でもあるような気がします。


 〈外見〉

 神々の中で最も美しく、その美貌が逆に災難して巨人の情欲対象になってしまうこともあります。

 黄金に輝くブリーシンガ・メンは、いつもつけています。確かにあれだけの犠牲を払ったならば、これだけ大切にしていても納得です。こちらの首飾りについて言及している文書を見てみると、「豊穣性の最もしばらしいシンボル」という説明がありました。しかしそれ以上のことは書かれていません。が、おそらくこれほど優美なフレイヤが食指を動かしたのですから、外見になにか秘密があるに違いありません。この首飾りについては想像して満足するのが一番でしょう。

 

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