Ⅲ.雷神トール

 〈名前〉

 名前の語源は「雷」です。雷とトールの関係については、以降改めて解説します。


 〈属性〉

 トールはオーディンの息子の一人です(あるいは弟)。性格は豪快で単純。あまり事物については考えず、怒りに任せて比較的よく乱暴も働きますが、その割にはすぐに機嫌を直すといいます。そのような性格からか、頭のよく切れるロキとは大の仲良しで、ウートガルザに遠征する時にも彼が付いてくることに異議を唱えるようなことはせず、そればかりか冗談を言っています。

 彼の枕詞。それは「巨人殺し」でしょう。少々物騒な名ですが、言い方を替えれば神々の守護者です。その素力(アースメギン)も計り知れないものではありますが、ブロックとエイトリというドヴェルグの兄弟が作ったミョルニルという槌は、彼の「巨人殺し」としての存在をさらに印象付けています。この槌はどんなに硬いものに力いっぱい打ち付けても決して壊れず、投げても自動で相手に当たりに行き、さらには大きさを自在に変形させることもできます。またこの槌は彼の戦車を引く二頭の山羊をよみがえらせる時にも使われており、生と死双方を露骨に司る神具でもあります。さらにこのミョルニル以外にも、トールは力帯であるメギンギョルズとヤールングレイプルという鉄製の手袋を装着して戦いに挑みます。丸腰の巨人からすればなんだかフェアではありませんが、巨人は神を完全に包囲している構図ですし、神々には彼と同様に勇敢な戦士と言えばヴィーザルとフレイくらいですから、納得できない程の強さというわけでもありません。

 住処は540もの階層があるビルスキールニルで、死んだ農民がここへ招かれるといいます。この記述を見て、どうして農民? と思った方もいらっしゃるかもしれません。オーディンが貴人や武人の神と言われますが、対してトールは実は農民の守り神です。日本では豊穣神という印象は少ないまでも、天候一般を司り、大地を豊かにすることから広い信仰を集めていた神でもありました。


 〈雷神として〉

 では、名前にもなり、我々の印象でもある「雷」という点はどうなのでしょうか。神話物語の中ではあまり記述されていませんが、こんな話があります。彼がフルングニルという当時最強と目されていた巨人を倒した際、敵の武器である砥石の破片がトールの頭内に食い込み、残ってしまいました。その砥石が時々痛み、トールが叫ぶとそれが雷になるといいます。また先ほどお話しした山羊が引く戦車がありますが、実はあの戦車が空をかける音が雷鳴だともいいます。その他、大雨のなかに雷が落ちたりする悪天候を、北欧人はトールがミョルニルを振るっていると解釈しました。この雷という属性は、これらの話から見るに神話体系が生まれる前にすでに作られていたと考えるのが妥当でしょう。実際、その当時はオーディンと対等もしくはそれ以上の存在と考えられていました。これらのエピソードや、戦士としての勇猛さに着眼したローマ人が、トールをヘラクレスとみなし、その後は最高神ユピテルだとも考察したことから彼が北欧神話に置ける最重要の神であることは間違いありません。


 〈外見〉

 彼の容姿について触れられていることは、毛が赤いということくらいです。そのため「赤ひげ」というあだ名があります。

 この特徴以外には、これら解説と説話から筋肉隆々の戦士であるということと、ミョルニルをもっていること。及びそれを扱うために装着する鉄の手袋、力帯を装備しているということが分かります。

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